夢を見た。
 あのお花畑だ。
 8歳の蘭、蘭と手を繋ぐローズさん。
 近くには幼いサクラとクリスさんがいる。
 一人、口を開けてぽかんとしているシュロさんは何故か子供の姿ではない。
 一人、ワーワー泣き叫ぶ渚くんがいて。
 私は黙ってそれを眺めている。
 誰かの手を握っているのに気づいて見上げると、
 お兄様がいた。
「我ながら、凄いメンバーと旅してるんだねー」
 お兄様…と呟いても。
 決して、自分の声はお兄様には届かなかった。

 ぼんやりと視界が薄れていき、
 聞き覚えのある声を耳にした瞬間、
 ああ、また夢だったのかと悟った。
「俺を何回、心配させれば気が済むんだ?」
 心配そうに碧い瞳で私の顔をのぞき込む。
 ああ、蘭がいるなあと思った瞬間。
「あっ」
 胸元を隠したが、ちゃんと服が着せられている。

 確か、オンセンにつかりすぎて、のぼせたのまでは覚えている。
 サクラの支離滅裂な話に頭を抱え込んで、それで立ち上がって…。

 体調不良で何度、倒れてるんだろう…。
 自覚した瞬間、嫌になった。
「ごめん、せっかく順調に進んでいたのに。また、私が足を引っ張っちゃった…」
 辺りは暗い。
 今日はあんまり、距離を稼ぐことが出来ずに休むはめになってしまった。

 テントにいるのは、私と蘭だけだった。
 ランプの灯りでぼんやりと映し出される蘭の横顔は美しい。
「サクラの話、まともに聞いてたらのぼせんのも仕方ない」
「でも…」
 思わず泣きそうになる。
「大丈夫、シュロも体調悪くて横になってたから丁度良かった」
「シュロさんが!?」
 思わず起き上がる。
「もしかして、シュロさん。昨日、私を助けたから?」
「いや、違う。・・・まあ、うん」
 急に言葉を詰まらせる蘭に首を傾げる。
「もう、旅も4日目だから皆疲れが溜まってきてんだろ。ここで無理はしないでゆっくり休めて丁度良かったんだ」
「…うん」
 いつも、(トゲ)のある言い方をする蘭が優しいと調子が狂ってしまう。
「ねえ、私のこと助けてくれたのってサクラ?」
 サクラも私と同じくらいオンセンにつかっていたのに大丈夫だったんだろうか?

 蘭は、私の質問にビクッと肩を震わせて「まあな」と頷く。
「なんか、蘭。様子、おかしくない?」
「なんかって、何だよ。俺だって・・・」
 と言いかけて、蘭が目をそらす。
「ちゃんと、水飲んどけ」
 蘭はテントから出て行ってしまったので。
 何なの? と思った。