日が暮れる頃、サクラは喉が渇いたのでフラフラと歩き出した。
 その様子を木の上から眺める2人の男がいる。
 今年、青年騎士団学校を卒業したジョイとマリアという男だ。
「卒業して、特別任務っていうのが、あの女の見張りかあ」
「ヘイ、マリアちゃん。楽しくやろうぜ。可愛い子じゃん、あの子」
「可愛い子って、あいつ、ほんとは男なんだろ?」

 ジョイはいつでも楽観的に考えている。
 赤髪に身長180cm以上のすらっとした身体。
 翡翠のような美しい瞳の持ち主は、遠くからでも目立つ。
「俺の父ちゃんは、世界中を旅していたのに気づいたら、この国に住み着いて母ちゃんと出会って結婚してたらしい」
 誰に対してもフレンドリーで、よく笑うのがジョイの特徴だった。

 マリアは、先祖代々騎士団として国王に仕える一族だ。
 5人兄弟の四男で、兄は3人とも騎士団として活躍している。
 弟は今、青年騎士団学校に通っている。
 真面目で、面倒見が良く頭の回転が速い。
 マリアというのは、本名で。母親が「次は絶対に女の子が生まれると思う」と考えた名前だそうだ。結局、男の子が生まれたのだが考えるのが面倒臭いということで、そのままマリアという名前になってしまった。
 ジョイとは違って、マリアは小柄で女性っぽい顔つきをしているので。「その名前、似合っているね」と色んな人間から言われてきた。

 青年騎士団学校を卒業した後、暫く2人は青年騎士団学校の護衛係として門番をして働いていた。その後、特別任務と言われて、選ばれし者であるサクラを見守ることになった。
「だりいなあ。見張るだけってのはさー」
 マリアが文句を言うと、ジョイはアハハハと笑い飛ばす。
「俺は、人を傷つけるくらいなら見張りのほうがいいよ」
 それを聞いたマリアは心の中で「それなら、騎士団なんてやめちまえよ」と呟いた。
 いずれ、誰かと戦って。
 人を傷つけ、時には相手の命を奪うのが騎士団の仕事ではないか。

 沢山の人間を殺してノイローゼになった人間が何人もいるというのを聞いたことがある。
 精神的に追い詰められて自殺した者だっているし、サクラのように心を壊すものだっている。
 楽観的に笑い飛ばすジョイに対して、口に出せないのは、
 自分もまだ人を傷つけたことがないからだ。

 マリアの2番目の兄が精神的に追い詰められたことを知っているので、自分もいつかは壊れてしまうのではないかという思いはあった。
「あの子は、一番何に傷ついてるんだろうねえ」
 鼻歌を歌いながら、ジョイはサクラを見つめている。
「そんなの、知るかよ」とマリアが突っ込む。