目を閉じると、サクラの目の前に現れるのは。
 血まみれの同級生と、母親だった。
 彼らから、逃げようと走るのだが転んでしまう。
 来ないでと叫んでも近寄ってくる。

 何も悪い事なんてしていないのに。
 どうして、周りは自分を傷つけるのだろう。
 息が出来ない。
 人に会いたくない。
 来るな、話しかけるな。
 …もう、放っておいて。


「ここは、アームストロング家の領地だから、思う存分。好き勝手に行動しろ」
 ヒサメとヒョウに連れてこられたのは。
 アームストロング家の領地だという、森の中だった。
「ここには湧き水があるし、食べ物だって探せばなんかあるだろ。あとは、自分でどうにかしろ」
 早口でヒサメが言っているが、サクラは黙って聞くだけだ。
「帰りたくなったら、帰りたいって言えば、迎えに来るからね」
 ヒョウがサクラを心配そうに見つめる。
「いいか、一人になったからって。絶対に死ぬなよ」
 何を言っているのだろうとサクラはヒサメを見た。
 サクラが黙っていると、「じゃあな」と言って2人はいなくなってしまう。
 何も考えることもできないサクラは、しばらくその場で立ち尽くしていた。

 傷ついたサクラを救う唯一の方法として考えられたのが、
 森の中で一人暮らすという、荒療治だった。
「ヒサメらしいといえば、ヒサメらしい考えだけど…。それで、サクラが更におかしくなったらどうするの?」
 ヒョウが言うと、ヒサメは「はんっ」と鼻で笑った。
「それで駄目だったら、サクラの人生はそこで終了ってことだろ。あいつは大丈夫だ。大切な者がいるんだから。それに、ちゃんと見張りだっているんだから」
「見張りねえ・・・。頼りなさそうだけどねえ」