クリストファー・アームストロング。
 サクラの本名である。
 サクラは他の男の子と比べると成長が遅く、小柄で女の子とのような顔立ちをしていたので、いつも女の子に間違われていた。
 女の子に間違われるたびに、母は怒りサクラの髪の毛を短く切るように召使いに言い放った。

 物心ついた頃のサクラにとって、母は恐怖の(カタマリ)でしかなかった。
 実の母親であるのに、会話するだけで息が出来なくなる。
 伸縮性のある長ズボンに、白いシャツを着て、ジャボと呼ばれるヒラヒラとした胸飾りを付け、白いジャケットに金色の刺繍を施した服を着せられていた。

 サクラにとって、この格好は苦痛以外の何物でもなかった。
 貴族と言っても、身分は低いのに鼻にかけたようなこの服装は何なのだろう?
「こんな服イヤッ」と投げつけると、容赦なく母に叩かれる。

 家庭教師に勉強を教わりながら、剣術の稽古がある。
 男らしく、強く、アームストロング家の恥にならないように。
 毎日のように母に言われた言葉。
 言うことを聞かなければ、問答無用で母に叩かれる。

 呼吸が上手くできなくなったのはいつからだろう。
 サクラは、服を着ようとするとゼーゼーと息を乱し体調を崩しだした。
 具合が悪いから横になりたいと言えば、母に「それは甘えだ」と言ってまた叩かれる。

 こんな自分は、自分じゃないと思いつめ毎日泣き叫んだ。