シュロが呪いをかけられた日は本当に最悪な日だった。
 食堂での仕事を終えて、シュロは森でトレーニングをしていた。
 そこへ、ひと月ぶりにローズがやって来た。

 ローズと蘭が兄弟だというのを知った後。
 ローズは、ひと月に1~2度現れては、シュロとお喋りをして姿を消す感じであった。
 クリスの話によると、学校にはあまり来ていないそうだ。

 久しぶりに会うローズは雰囲気が変わっていた。
 髪の毛はサラサラのストレートで襟元まで伸びていたが、ツーブロックと言えばいいのだろうか?
 短く両サイドが刈り上げられている。
 髪型は完全に男なのだが、顔立ちが女性ぽいので変な感じだった。
 ローズが仮にスキンヘッドになったとしたら、絶対に似合わないのだろうなあと勝手にシュロは考えていた。

 元々、目の下の(くま)は酷いほうだったが、更に濃くなっている。
 目つきは鋭く、少し痩せたか? とシュロは感じた。
「久しぶりだな!」
 ローズの変わりように気づきながらも、明るい声でシュロが言った。
「すんごく忙しかった…」
 と急にローズがため息をついて座り込んだ。
 忙しいながらも、こうして自分の元へ来てくれたローズを、シュロは嬉しく思った。
「何か、やつれてねえか? ちゃんと飯食ってんのか?」
 手に持っていた木刀を置いて、シュロがローズに近寄る。
 そういえば、ローズは制服を着ている。
「シュロは変わらないなあ」
 と言って、急に笑顔でローズはシュロを見てきた。
「俺の心配してくれるの、シュロだけだよ」
「はっ!? そんなわけねーだろ」
 急に凄いことを言い出したので、シュロは大声で否定する。
 ローズは黙り込んだ。
 シュロも黙り込む。

 サラサラと木々が風で揺れる。
 風が吹くたびに、ローズが消えてしまうのではないかとシュロは目を大きく開けて目の前に座り込むローズを見つめる。
 ぐったりと座り込むローズを見ていると、何だか気の毒に思えてきた。
 世界最強だなんて言われているけれど。
 自分よりも年下で、まだ14とか15歳の男だっていうのに。
 酷く疲れているようだった。

 ローズは、びくっと身体を震わせたかと思うと。
 ゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと、悪党どもを抹殺してくる」
「えっ…」
 そう言うと、ローズは全速力で走り出した。
「おいっ、どこに行くんだよ」