「そいでね、先生ったらさ、また他のクラスの奴どもをひいきし始めたのよー」
 サクラの止まらないお喋りを聞きながら、シュロはスプーン片手に上の空だった。
 森の中で怪我をした少年は無事なのだろうか。
 授業中に怪我でもしたのだろうか。
 …でも、あの少年。制服は着ていなかったような?

「シュロくん、大丈夫?」
 シュロの様子を見てクリスが心配そうに言った。
「うーん。俺は大丈夫だけど…」
 この2人にあの少年のことを話すべきか悩む。

「シュロがおかしいのはいつものことでしょ。それより、シュロ。噂の人は食堂に来たりしてる? 食べ物はこっちのもので口に合うのかしらねえ」
 どさくさに紛れて、サクラの口から毒が吐かれたような気がするのだが、
 シュロは全然、サクラの話を聞いていなかった。
「何の話?」
 ぼぉーとした顔で言うと、「まーた、人の話聴いてないでしょ!」とサクラがプンプンと怒り出した。
「スカジオン王国からの人質がうちの学校に通っているらしいのよ。シュロと同じ特別扱いで、あんまり授業は出られないらしいけど。今日は学校に来ていたそうよ」
「人質?」
 物騒な言葉にシュロは真顔になる。
「俺らの学年で、異国からやってきた子がいるらしいんだ。表向きは交換留学生ってことになってるけど実際は人質って話なんだ」
「…そいつがどうかしたのか?」
 会話の意味がわからず、シュロが首を傾げるとサクラは盛大にため息をついた。
「世界最強って言われてるんですって。…本当かどうかはわからないけど」
「料理長に何か言われてない? スカジオン王国からやって来た人のこと」
 シュロは考えたが、思い浮かばなかった。
 海外の人間の存在なんて聞いたことがなかった。
「そいつって、どういう見た目なのか? 俺達と違うのか」
 シュロが言うと、サクラは「ぜんっぜん違うわよ」と大声を出した。

「美形よ、美形」
「は?」
「この世にあんな美しい男がいるのかって驚くくらいの美形よ」
「…おめーの言う美形ってクリスじゃねえのか」
 ぼそっとシュロが言ったが、サクラは興奮していて聞いていない。
「見た目はすぐにわかると思うよ。金髪に青い目をしているからね」
「…え!?」