食堂での仕事を終えて家に戻ると16時を過ぎている。
 ダイニングルームに座っているのは真剣な顔をしたクリスと、不機嫌そうなサクラだった。
「お仕事、お疲れさん」
「おう、そっちもお疲れ」
 シュロが座ると、クリスはチラッとサクラを見た。
「朝の続きなんだけど。驚くかもしれないけど聴いてほしいんだ」
「何だよ」
 クリスは数秒黙った後、すぅと息を深く吸い込んだ。

「俺とサクラは時間帯によって性別が変わるんだ」

 シュロはまばたきを何度かした後、「ふうん」と言った。
 シュロを見ていたサクラは「はぁ!?」と声をあげる。
「わかってんの、シュロ? 意味わかってないでしょ」
 顔を真っ赤にして怒りだしたサクラにシュロは黙り込む。
「俺は普段、男の身体だけど夜になると女の身体になるんだ。だから、シュロくんに近づかないでほしいって言ったんだ」
「俺、言われなくても近寄らないけどなあ」
「サクラは、今朝見た通り。いつ性別が変わるかわからないんだ。男になったり女になったり、だから授業だって毎日出られるわけじゃない」
 シュロはぼんやりとクリスの顔を眺めていた。
 クリスの横では鬼の形相で、こっちを睨みつけるサクラがいる。
「シュロくん、ごめんな。ずっと隠していて。でも、このことは誰にもいわないでほしい」
 クリスが言ったので、シュロは「わかった」と返事をする。

 3人が黙り込むと、部屋が一気に静まり返る。
 シュロは、夕飯何にしようかなという考えがよぎった。
 キッチンに何が残っていたっけと考えていると。
「何で、何も言わないの?」
 と、サクラが言った。
「何かって?」
 シュロが言う。
「フツー、そんなの嘘だとか、オカシイとか、気持ち悪いっていう感想があるでしょ?」
「いやあ、別に。そういう人間だって世の中にはいるってことなんだろ?」
 あっけらかんと答えるシュロにサクラは「ばあか!」と言って泣き出した。

「何だよ、何で泣くんだよ」
「シュロくんって最強だね」
 フフッとクリスが笑うのでシュロは首を傾げた。
 この世に天使がいるのだから、性別が変わる人間がいてもおかしくはない。

 後からクリスに聞かされたのだが、2人が家族から酷い仕打ちを受けていたことを知った。
 病院で検査を受けて医者から「バケモノ」と言われたそうだ。
 サクラは、その日からシュロに心を開くようになってくれた…気がした。