クリス、サクラ、渚、シュロの4人が椅子に座った。
 アズマは立ったままだった。
 テーブルの中央には、シュロが皮をむいたリンゴが置いてある。
 シュロはリンゴを黙って食べている。
「シュロ、ちょっと我慢しなさいよ」
 デリケートな話になるであろう。
 もぐもぐ言っているシュロに対して、サクラが注意する。

「サクラ様とクリス様は魔法をかけられているとお聞きしました。我が(あるじ)である蘭様にも魔法がかけられているのです」
 一同がぽかんと口を開ける。
「まさか、蘭も性別が変わるわけじゃないわよね」
 アズマの言葉が信じられないのか皮肉を吐き出すようにサクラが言った。

「…蘭様は、異性の方に指一本触れられない呪いをかけられたのです」

 アズマの言葉を聞いても、誰もが「は?」と首を傾げたと思う。
 クリスはそんな魔法があるのかと驚いた。
「異性に触れたらどうなるんですか」
 唯一、冷静に質問したのはシュロだった。
「…失神するんです」
 アズマの真面目な一言に、サクラは、ブーと吹き出して笑った。
 だが、アズマの表情は崩れなかった。
「え…本当なの?」
「私は嘘をついておりません。私は当事者じゃありませんので、断定は出来ませんが。蘭様はサクラ様とクリス様のことを決して嫌っているわけではありません。むしろ、恐れているのです」
 アズマはサクラのほうを見る。
「どういうわけか、サクラ様に触れても失神はしないようですが。クリス様に触れると体調を崩すというのが、お話を聞いているとわかりました」

「…信じられない」

 むっとした表情でサクラが言った。
 クリスも同じだと思った。
「それって、気持ちの問題じゃないのかしら。あいつ綺麗好きなんでしょう? 生まれつきお坊ちゃんだからって庶民と暮らすのが嫌なだけじゃない」
 トゲのあるサクラの言い方に、アズマは悲しそうな顔をした。
「…こうなったら、包み隠さずお話します」