あたしに借りを作るようなことになってしまうのは嫌だけれど、襲われなくて済むなら誰に助けられてもいい。
 でも憎んでいるとまで言ったあたしが助けてくれるのか。
 
 ……そんなところだろう。


 あたしが香梨奈さんを助ける義理はない。

 一方的に憎しみを向けられて、しのぶを傷つけて。
 あたしからしても香梨奈さんは嫌いな子だ。

 そんな相手、知ったことじゃない。


 ……そう思えれば良かったのに。

「……分かった。するよ」

 嫌いな子でも、このまま襲われるのを黙って見ている事だけは出来なかった。


「へぇ、そうか」

 楽しそうに極悪な笑みを浮かべて橋場がグッと近付く。

 思わず身を引きそうになったけれど、その前に腰に手を回し引き寄せられた。

「じゃあ、してもらおうか?」

 大嫌いな男の腕に閉じ込められ、嫌悪感にゾワゾワと鳥肌が立つ。

 しかもあたしがキスしやすいように顔も近付けてくるから、嫌だって気持ちが抑えられない。


「ははっ相当嫌そうだな? やめてもいいんだぜ? どうせ全部奪うからな」

「くっ……」

 助けが間に合わなくてキスされたり触られたりはするかもしれない。

 そう思えば、人助けのためにキスするのだってあまり変わらない。


 自分に言い聞かせるように今にも暴れ出したい衝動を抑えた。