「そう、だけど……でも、止めて」

 庇う言葉は浮かんでこない。

 だから止めて欲しいとしか言えなかった。


「あのなぁ、お前それ我が儘じゃねぇ? 大体俺もうその気になって――」

「まあ、いいぜ?」

 黒髪が言い終わらないうちに橋場が声を上げる。

「でもそうだな? 美来、お前の方から俺にキスしたら止めさせてやるよ」

「なっ⁉」

 ふざけた交換条件にあたしは数秒言葉を失った。


「橋場さん、そりゃないっすよ」

「てめぇは地元に四人くらい女いるだろうが。我慢しとけ」

「えー? このまま連れ帰って五人目にしようと思ってたんっすけど。解放するのもそこの二人だけでよかったはずっすよね?」

「じゃあ後でしつけとけよ。とりあえず今は止めとけ」

 クズな会話にまた別の意味で言葉を失っていると、黒髪があたしを見た。


「だとよ。どうする美来? 俺はしなくてもいいと思うけど?」

 ニヤニヤと、明らかに面白がっている。

 あたしが橋場にキスしなければ、このまま香梨奈さんを襲うだろうってことはその顔を見れば分かった。


 香梨奈さんを見ると、その顔には怯えと不安と疑心と……色んな感情が入り混じっている。