「……分かった。大人しくする」

 不満は顔にありありと浮かんでしまったけれど、二人が無事に済むならと了解の返事をした。

 助けが来てくれるのと橋場に好きにされるの、どっちの方が早いだろうかと焦りがにじみ出る。

 そんなあたしに橋場は「じゃあ、来いよ」と顎で指示を出す。

 言う通りに車から降りると、今まで黙っていた香梨奈さんが不機嫌そうに声を上げた。


「で? あたしはまだついていた方がいいの?」

 車の中からの質問に答えたのは黒髪の男だ。

 またヘラヘラした笑顔で「もちろん」と告げる。

「せっかくだし、美来がちゃーんとこの街から出て行くの見といた方がいいんじゃねぇ?」

「……まあ、それもそうだけど」

 半分納得していない様子だけれど、香梨奈さんはため息を一つ吐いて車から降りた。


 連れて来られた場所は住宅街――と言っていいのかどうか。

 人が住んでいそうな家がそこそこあるけれど、一軒一軒は離れていて空き家もある感じだった。

 郊外と一言で言っても、高峰組の邸宅がある辺りとはまた雰囲気が違っている。

 そんな中、明らかに空き家と思われる平屋の住宅に橋場は入っていく。

 一応つくりはまだしっかりしているけれど、鍵も壊れていて中は目に見えてほこりが溜まっていた。