「この子美来の友達でしょう? 美来は忙しくて無理でも、この子にちょっとだけ案内してもらえないかな?」

 と、しのぶの空いている方の腕に遥華は抱きつく。

「っ⁉ ちょっと!」

 それに反応したのは香梨奈さんだ。
 遥華は香梨奈さんからしのぶを奪い取るかのように引っ張ったから、人質を取るなとでもいう思いで抗議の声を上げたんだと思った。

 でも……。


「おい、ふざけたマネしてんじゃねぇよ」

 橋場が遥華のおだんご頭を無遠慮に掴みドスの効いた声を出す。

「うっ! 痛いっ!」

 髪を掴み引っ張られて、遥華の顔が痛みに歪む。

「遥華⁉ ちょっと! 離しなさいよ!」

 何としてでも遥華を巻き込みたくなかったあたしはすぐに抗議の声を上げた。

 でもあたしの声は無視され、橋場はそのまま遥華を車に乗せようとする。

「さっさと乗れ。気付かれちまったならどっちにしろ放っておくわけにはいかねぇからな!」

「きゃあ!」

 投げるように遥華を車の中に入れ込む橋場。

 あたしは慌てて遥華に寄り添った。


「遥華! 大丈夫?」

「いたた……髪何本かぬけたぁ。ひどーい」

 痛みをうったえてはいるけれど、その様子からはまだ余裕がありそうでホッとする。

 でも、すぐに安心していい状況じゃないことを思い出した。