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 願っても、超能力が使えるわけじゃないあたしは幹人くんに今の状況を知らせる術はない。

 スマホは持ってるけど、こっそり操作してバレたときが怖い。

 きっと、あたし自身じゃなくてしのぶが傷つけられるから……。


 でも、あたしがいなくなったことはすぐにみんなに知らされるだろう。

 稲垣さんなら、あたしたちがある程度学校から離れた頃を見計らってわざと大げさに言いふらすだろうから。

 そうなったら奏がGPSで居場所を特定してくれる。

 スマホと、もう一つ念のために持っているもの。

 それを取られてしまわないよう、今は無理に操作して気付かれるわけにはいかないんだ。


 だから、あたしは大人しくオバケ姿の橋場たちに付いて行く。


 裏門につくと、数メートル離れた場所にワゴン車が停車してあった。

 あれが稲垣さんが用意したと言っていた車だろう。

 運転席からサングラスとマスクで顔を隠した男が頭だけを出して告げた。

「話は聞いてる。乗れ」

 短く言い放つとすぐに頭を引っ込める。

 悪いことをしているって自覚があるんだろう。
 嫌な感じだ。


「行くぞ」

 橋場も短く言うと、車に近付きドアを開ける。

 乗れと顎で指示されて、あたしは嫌々ながらも乗り込もうとした。

 でもそのとき――。


「あれ? 美来? なんでこんなとこにいるの?」

 ここにいるはずのない人物――遥華が声を掛けてきたんだ。