「おい、そこの女。その人質、ちゃんと連れて来いよ?」

 橋場は視線だけを香梨奈さんに向け指示を出す。

 でも香梨奈さんは不機嫌な態度を隠すことなく声を上げた。


「はぁ? あたしに命令するんじゃないわよ。あたしはあんたたちがその女を連れて行く手助けをしてあげてるの。あんたの手下になった覚えはないわ」

 橋場の怖さを多少なりとも感じているだろうに、香梨奈さんは強気の態度を崩さない。

 そんな彼女に、いつの間にか近付いていた橋場の手下――黒髪の方が「まあまあ」と声を掛ける。

「仮装してこの学校に入り込めたけどさ、俺らってやっぱり部外者なんだよ。だからあんたがちゃーんと案内して、ついでにその人質を連れて来てくれれば助かるんだって」

 だから頼むよ、と言わんばかりに香梨奈さんの肩を叩く。


「……分かったわよ。仕方ないわね」

 黒髪の頼みに香梨奈さんはため息を吐いて了承した。


「てなわけで。行こうぜ、美来」

「……」

 視線をあたしに戻した橋場は余裕の表情で誘う。

 行きたくないなんて言っても多分しのぶに怖い思いをさせてしまうだけ。

 せめてもと無言を貫くことしか出来なかった。


 ……でも、本当にどうしよう。

 あたし、このままコイツに地元まで連れて行かれちゃうのかな?