「じゃあ、引き合わせも済んだし俺は自分の役目に戻るよ。車は手配しているから、後は好きにしてくれ」

 稲垣さんは片手をヒラヒラさせてそう言うと、倉庫の出入り口に向かった。

 出る寸前に一度振り返ってあたしを見る。

「さようなら、美来さん。俺も君が好きだったよ……憎らしいほどにね」

 まさしく愛情と憎悪が共にある様な目をして、笑う。

「っ……」

 その目は純粋に怖いと思った。
 でも、今の状況を作り出し、これから学校全体をもっと酷い状況にしようとしている彼には怒りの方が勝る。

 あたしは稲垣さんをキッと睨んで宣言する。

「……稲垣さん、あなたの思惑通りになんてさせません」

 ハッキリと、確かな意志を持って告げた。


 けれど、稲垣さんは本気で可笑しそうに笑い出す。

「ははっ! この状況でよく言うよな。負け惜しみにしか聞こえないって」

「……」

 分かってる、稲垣さんの言う通りだ。

 しのぶが人質になっていて橋場もいるこの状況。
 打開策も見つけられない状態じゃあ確かに負け惜しみにしかならないだろうから……。

 でも、だからって気持ちまで負けたくない。


 これ以上は本当に負け惜しみになるから何も言えなかったけれど、稲垣さんを睨むことだけは止めなかった。