「俺の計画を聞いていたんだ。バラされたら敵わないからな、解放なんて出来るわけがない」

 それくらい分かっているだろう? と、呆れと嘲りがないまぜになったような笑みを浮かべる。

「それに、美来さんは結構強いから。枷になる人質がいた方が暴れないだろう?」

「……」

 稲垣さんの言葉通りだったので何も言えなかった。


 しのぶが人質になっていなければ、人数がいても逃げるくらいは出来る。

 実際地元ではいつもそうやって橋場から逃げていたんだし。


「というわけで、その子もこのまま連れて行くといい。そうすれば美来さんは大人しくしているだろうから」

 と、稲垣さんはあたしに向けていた笑顔を橋場に向ける。

「そりゃあいい。せっかく見つけたってのに、いつもみたいに逃げられたら困るからな」

 上機嫌な橋場に舌打ちしたくなった。

 分かっていたけれど、人質を取ることを卑怯だとも思っていないみたいだ。

 卑怯で、卑劣で、対面してるだけで胸糞が悪くなるような男。

 それが橋場冬馬という男だった。

 その卑劣さは数か月見ない間でも変わりないみたいだ。


 しかも手下の男二人もしのぶのほうを見てニヤニヤしている。

 絶対ろくなことを考えていない。