でも、大人しく従うつもりはない。


 《月帝》と《星劉》が争って、一般生徒も巻き込む抗争に発展させるわけにはいかない。

 大嫌いな橋場と、共に行くつもりなんかない。

「あたしが、大人しく付いて行くとでも?」

 行くわけがないでしょうと暗に告げると、今まで黙って成り行きを見ていた香梨奈さんが鼻で笑った。

「ふん、忘れたの? こっちには人質がいるのよ?」

「っ!」

 香梨奈さんの馬鹿にするような口調としのぶの息を呑む音にすぐに彼女たちを見る。

 香梨奈さんはナイフをグッとしのぶの顔に近付けていた。
 小さくても鋭い刃の先端は、しのぶの目を狙っている。


「っ! やめて!」

 しのぶの存在を忘れていたわけじゃない。忘れるわけがない。

 でも、しのぶは直接の関係はないはずだ。
 解放するのが無理でも、あたしと一緒に連れ去られる必要はない。

「分かったわよ。橋場に付いて行けばいいんでしょう?」

「初めからそうしなさいよ」

 冷たく言い放つ香梨奈さんの手が少し下がる。

 しのぶから刃が離れたことでホッとしたあたしは、しのぶの処遇について願った。


「しのぶは関係ないでしょう? 解放してよ」

「それは出来ない」

 香梨奈さんに願ったつもりだけれど、答えたのは稲垣さんだ。