あたしは昔話のかぐや姫ではないし、幹人くんだってずっと《月帝》の総長をするわけじゃない。

 だから今の話は、ただのたとえ話。

 でも、そうだとしても嬉しかった。

 ずっと側にいて欲しいと思ってくれているってことだから。


 だから、あたしもその話に乗っかった。

「うん。幹人くんのそばが、あたしの居場所だね」

 笑顔で同意すると、嬉しそうな笑みが返ってくる。

 ああ、本当に幸せ。

 幸せで、幸せ過ぎて……照れくさくなってきてしまった。

 だから、つい言わなくてもいいことを口走ってしまう。


「でも、それじゃあ今は八神さんが帰る場所ってことになっちゃうよ?」

 言ってしまってから余計なことだったなと後悔する。

 なんとかフォローをしなくちゃと考えていたけれど、幹人くんは不機嫌になることもなく真剣な目をあたしに向けた。

「行かせねぇよ」

 幹人くんの大きな手が、あたしの左頬を包む。

「俺が《月帝》の総長になるまでは、帰らせねぇ」

「っ!」

 真っ直ぐ見つめる眼差しが少し怖くて……でも、すごくカッコよくて……。

 ドキドキドキドキ、鼓動が早まる。