あたしの耳の近くにあった幹人くんの頭が上げられ、様子をうかがわれる。

「……」

 でも、今口を開くと変な声が出そうで何も答えられない。

 赤すぎる顔も見られたくなくてそのまま顔を埋めていると、何を思ったか幹人くんは慌て始める。

「あ、悪ぃ。嫌だったか?」

 そう言って腕を離そうとするから、あたしは更にギュウッと抱き締めた。


 違うよ。
 だからまだ離さないで。


「み、美来? ホント、どうした?」

 狼狽(ろうばい)する幹人くん。

 嫌だったわけじゃないと伝えたいけれど、やっぱりまだ普通の声は出せそうになくて……。

 だから仕方なく、ちょっとだけ顔を見せた。

 ずれた眼鏡を片手でチョイと直しながら彼を見上げる。


「え? 美来、なんでそんな赤くなって――っ!」

 驚かれたけれど、言葉の途中で幹人くんの顔もあたしの色が移ったかのように赤くなった。

「っちょ、待った……その顔、ヤバい……」

 そう言った口を片手で覆い顔をそらすと、続きをぶつぶつと独り言ちる。
 でもすぐ近くにいたあたしには聞こえた。

「顔赤くて、潤んだ目で上目づかいとか……ちょっ心臓マジで痛ぇ……」

 言葉通り、幹人くんの心臓の音もまた大きくなっている。

 ドッドッドッドッと、今度はあたしも同じくらいの速さ。