そうして、私はキュッとベイルさんの胸元を掴むとそこに身を寄せて、困っていたことを訴えるように瞳を潤ませて言った。

「ベイル様。心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません。まだ周囲への発表もしておらず、婚約者がいることを言っていいのか分からずで……」

グスっとちょっと涙をこらえる仕草と音を立てて、ギュッとベイルさんに甘えるように身を寄せた。

「あぁ、ユウ様。気遣わせてしまっていたのですね。言ったでしょう? なにかあったら、すぐにでも仰って下さいと。私はあなたの婚約者なのですから」

言葉と共に、私の頬に手を添えてくれるベイルさんの愛おしいものを慈しむ表情はかなりの美しさで、私の心臓がオーバーヒートしそう。

仮の婚約者だというのに困っているから頼まれて助けに来てくれただけに違いないのに、こんな面倒に巻き込んでしまった。

そう思ってもベイルさんの表情がすごく新鮮で、私のドキドキが止まらないのだ。

見つめ合う姿が、どうか本当に愛し合う婚約者同士に見えますように。

そう思いつつ、私は言った。

「えぇ、ベイル様はそう言ってくださったけれど、お忙しいベイル様を煩わせてはと思って……」

ベイルさんはキュッと眉間にシワを寄せて、申し訳なさそうな、そんな顔をして言った。

「ユウ様。私は確かに忙しい身ではありますが、愛しい貴女が困っていて助けに来ないような薄情な婚約者ではありませんよ」

労る手つきに、頬を撫でる手に私は甘えてしまう。

この手に私は、頼ってしまう。

温かく優しいこの手に、まだ会ってそんなに経っていないあなたに……。