そんな、まだ自覚もここへの愛着も薄い感じの私だけど、この数日だけで西の砦の街の人々や騎士さん、移動中の王国騎士団の騎士たち、妖精のサリーンとアリーン。それに白猫のメルバ。
マリアさんにジェシカちゃん。
少ないながらも、たくさんの人々と接してきた。
そして、どんな人からも見た目のおかげもあるのだろうけれど、親切にしてくれた。
ここに来て出会った人々は優しく、温かだった。
そんな人たちの、穏やかな生活が脅かされている。
そして、私には癒しの術と魔法の力がある。
だから私はきっと選ぶんだろう、自分の穏やかに過ごせる日々も願って。
「国王陛下。お気遣いありがとうございます。この少ない数日の間でも、私はこの国の人々に優しくして頂きました」
顔を上げてニコッと笑うと、私は続けた。
「きっと私が黒い髪と瞳でなくっても、この国で出会った人々は、困った人に手を差し伸べる人々だと感じています。だから、私自身がこの国で穏やかに暮らせるように尽力します」
私を見つめた国王陛下は、キュッと唇を引き結んだ後で一つ息を吐くと少し表情を和ませて言った。
「我々、国を統べるものには歴代の黒の乙女に関する記録がある。全ての者が協力的であったわけでも、前向きであったわけでもない。それでも、圧倒的な力を欲する時に現れる強き者に人は縋りたくなってしまうのだ……」
表情を引き締めた国王陛下は、私を真っ直ぐに見つめて言った。