「面を上げよ」
落ち着いたテノールの声に、私は顔を上げた。
うん、声は顔を裏切らない。
ここはどうしてこんなに美人さんや美形さんが多いのかな? 私の東洋系の顔立ちが浮きまくるわ。
なんて、内心の嘆きは顔に出さにように気をつけつつ、向こうからの声掛けを待つことにする。
「御足労頂き、誠に感謝する。此度、急にこの国に現れたことは、乙女にとって本意ではないであろう。だが、我が国はあなたの力を頼らざるをえないのが現状だ」
しっかり話してくれる国王陛下と私の視線が合うと、表情に憂いをのせて言った。
「現状我が国は、四方の国から狙われている。このままでは、戦争になるのも時間の問題。そんな折、黒の乙女が現れたのは、我らには僥倖なのだ」
言葉の割に、表情は明るくはならない。
私は、しっかりと聞くという意思を込めて、国王陛下を見つめた。
「だが、我々が助かってもこの国、世界に有無を言わせず来てしまった乙女に、我々は酷な願いを押し付けていると思うのだ」
そうか、この国の王様はちゃんと人を思いやれる、人の上に立つ人としては素晴らしい人物らしい。
急に来て、分からないままに救世主と言われ、黒の乙女と呼ばれるようになってしまった。
私からすれば、まったく知らない世界と国でたまたま日本人で、黒髪で黒い瞳だったからそう呼ばれてしまった。
そんな感じなのだ。