翌朝、朝日が昇り辺りが明るくなった頃。

私は、砦の見晴台に立った。

私の後ろには、団長のクリストフさんが着いている。

「ユウ。遠慮は要らん。派手にやってやれ」

その言葉を合図に私は、サリーンに手伝ってもらい言葉を相手方に届けてもらう。


「アビエダの兵たちよ。このまま攻めてくるのであれば、こちらにも考えがある。半刻の間に撤退せねば、精霊王の怒りを受けると心得よ!」

この時のためと言わんばかりに、私には綺麗な光沢のある黒のドレスが着せられている。

コルセット風の腰帯は金で黒との対比が眩しい程だった。

私の声はちゃんと届いたはずなのだが、アビエダの兵は引かぬままに半刻が過ぎた。

「とても残念だわ。アビエダの兵たちよ。精霊王の怒りを知るが良いでしょう……」

そう言葉を発したあと、私は両手を天に掲げ、言った。

「この国に悪意あるものに、精霊王の怒りを!」

手に、力を込めて大きく振りかぶると天から青白いイカヅチがバリバリバリと大音量を轟かせて、近くの大木を真っ二つに引き裂き、大岩は粉々に砕け、地面を大きく抉った。

晴天の最中にいきなり始まったイカヅチの襲来に敵の兵はパニックに陥り、収拾がつかず、逃げ出すものが続出でまとまりを無くし、砦前に敷かれた前線から次々と撤退して行ったのだった。

「ユウ。清々しいほどの勢いだったな。これは当分奴らもここには来ないだろう。ありがとうな!」

そう言うと私を抱き上げて、団長は大きな声で言った。

「敵は見事、黒の乙女が撃退して下さった! 今回は我々の勝利である!」

その宣言に砦の人々は歓声を上げて喜び、ここ一ヶ月続いていたという、砦の攻防は無事幕を閉じたのだった。