「黒の乙女よ。ありがとうございます。団長は司令官でもあるので、今の西の砦にとって大切な要なのです。助かりました。他の怪我人も、診て頂けますか?」
もちろんここに来て、この現状を見てなにもしないなんて出来ない。
私は看護師の卵だった。
元々、人を助けることを仕事にしようとしていたのだ。
異世界で、まさかそれに近いことを求められるとは思っていなかったけれどこれも、縁というものなのだろう。
「ユウ、この団長さん以外は命に関わるような重傷者はいないから、広範囲魔法を使うといいわ」
一人づつ診るために動き出そうとしたところに、アリーンがそう声を掛けてきた。
「広範囲魔法ってどうやるの?」
そんな使い方も分からなのに、あっさり言わないで欲しい。 ここに来たばかりで魔法初心者なのを忘れているのだろうか?
私の困惑顔を見ても、アリーンは気にする素振りもなく、サラッと説明してくる。
「目に見える範囲の人を治したいと思って魔力を広げれば出来るわよ?」
魔法について、アリーンの説明は最初から本当にあっさりし過ぎだ。
「ユウがきちんと視覚に確認した範囲にいる人を、治したいと思って魔法を使えば大丈夫よ」
なんともざっくりとそう言われてしまった私は砦の中の見晴台に移動して、そこから砦の中の人々を治したいと強く意識して魔法を行使した。