「黒髪の乙女。お迎えに上がりました」


前に来た騎士は膝をつくと、私の手を取り甲に軽く口付けた。

漫画の出来事みたいな仕草に、一歩遅れて羞恥が襲ってきて、顔が熱くなる。


「やはり、強い魔力と癒しの力をお持ちだ」


騎士の呟きに、私は聞き返す。


「どういうことですか? 魔力は分かりますが、癒しの力ってなんですか?」


私に言葉に、ハッとした騎士は敬礼して答えてくれた。


「大変失礼しました。私は鑑定のスキル持ちで辺境騎士団第一部隊隊長のジェラルド・アランス・モルガンです。癒しの力とは治癒術の使い手のことです」


魔法は色々森で試してきたけど、治癒に関しては私も知らなかったよ!?

驚く私に、騎士の面々はいきなり頭を下げてこう切り出した。


「黒髪の乙女よ。本来なら王都にお送りせねばなりませんが、今西の砦は大変な事態になっております。お力をお貸しください」


揃って下がった頭に、私は分からないながらも答えた。


「私で役に立つのなら。一刻を争うのでしょう?」


私の言葉に、険しい顔で頷く面々に私は半日過ごした、落ち着く静かな村からの早い出立を決めた。

そこに、ケジャさんが少し大きめの袋を持ってきて渡してくれる。


「ユウ。少しだがね、これを持ってお行き。着替えと、少しの食料と飲み物だよ」


差し出してくれるケジャさんは、出会った後からの優しい顔のままだ。


「ユウにはこれから先に沢山のやることがあるからね。今日の駄賃分だよ。遠慮せず持ってお行き」


私は、この短時間で随分ケジャさんに懐いていた。

寂しいけど、行かなきゃいけないだろう。

そのために召喚されたのだから……。


「ケジャさん、ありがとう」


ぎゅっと抱きついてお礼を言って、私は騎士さん達に連れられて、私の始まりの小さな村を出ることになった。


「この村の全てに感謝を……」


祈るように呟いて、私はジェラルドさんの馬に相乗りしての移動になった。