そうして、ベイルさんがポケットから出してきたのはシンプルなリング。
この世界には、結婚指輪などの結婚に関するしきたりはない。
だからこそ、驚いた。
そのシンプルなリングは、私がお守りのように身につけている、ネックレスに通されたものに似ていたから。
私の驚きに、ベイルさんは苦笑して言った。
「ビックリなさいましたか? あんな態度で仮初だと言いつつゴリ押しで。なんとかしてあなたに振り向いて欲しくて、私はよくジェシカちゃんにあなたのことを聞きました」
このネックレスに関してはミレイド家ではジェシカちゃんにしか話してなかったのだ。
私が首から下げているものに、初めに気づいたのはジェシカちゃんだった。
その時に話したのだ。
これは、亡くなった両親の結婚指輪で、私の世界では結婚すると揃いの指輪を左手薬指に付けるのだと。
ここに来た当初のことで、私も話したことを忘れていたものだった。
「そのいつも首にかけられていたものは、ご両親のものだったと。お守りなんだと聞きました。その素敵な風習を、私はあなたに送りたいと思ったのですが、受け取ってくれますか?」
どこまでも、考えていなかったことの連続で、私は起きている事態に頭上手く追いついていかない。
でも、素直な気持ちを言葉にと出かける前に家族にたくさん言われた。
その言葉がよぎった時、私の胸の苦しさは一気に溢れて、零れるように口に出た。