「西の国と、東の国の者達よ。今去るならば、許そう。まだ、戦うと言うならば、この聖獣と黒の乙女が相手である!」

私は、メルバの背から、高らかに伝える。

その声はサリーンの力を借りて、風を伝い、敵陣の隅々まで伝わっていく。

「な、黒の乙女がこの戦場に?!」

私の声が響くと、西の以前の戦いにいたのであろう兵士たちからはどよめきが走り、一気に陣営は形を崩していく。

「俺は、まだ死にたくない!」

「あの、イカヅチに、聖獣様。イベルダには神の加護があるんだ!手出ししてはならぬ!」

そう言うと一般の兵は次々と持ち場を離れて、敗走して行く。

東の陣営もどちらかと言うと、神には信奉があるらしく、メルバの姿だけでかなりの陣営が崩されていた。

そんな戦況に、西と東の指揮官達は困惑を隠せないが、東の指揮官はいち早く撤退を決めたようで、指示が出された。

「これは、精霊王や神に逆らうものであった。これは国の存続に関わる。戦ってはならぬ。撤退だ!」

東の指揮官は、戦況をしっかり読める人だったようで、今状況では立て直しの厳しいことを把握して、撤退をいち早く決めた。

その様子に、なかなか次の行動が決まらなかったのが西だった。

彼らはやはり、この地がなかなか諦めきれなかったようで、行動が遅かった。

そこをメルバは逃さない。