手を繋いだまま、ずいぶんと遠くまで

歩いて来たけれど、海岸ですれ違う人は

少なく、僕たちは砂浜に靴を脱ぎ棄て、

波打ち際に立っていた。

引いてゆく波が、さらさらと足元の砂を

奪ってゆく。海水は思ったより温かかった

が、ぐらりと足元が揺らぐような感覚

が、立っていて心許ない。

じっと海を見つめている弥凪の横顔は、

このまま空と海の(あお)に溶けて消えて

しまうのではないかと思うほどに美しく、

儚く、どうにもいたたまれなくなった僕は、

ジーパンのポケットから携帯を取り出した。

(何かさ、逆に気を使わせちゃったね。

二人きりにして、本当に良かったのかな?)

手を繋いだまま、その一文を見せると、

弥凪は淡く笑んだ。そうして、僕の携帯を

手に取った。

(純と二人きりになりたいと思ったのも、

本当だよ。だから、気を使ったのも、使われ

たのも、正解。咲ちゃんなら、大丈夫。

町田さんのこと、気に入ったみたいだから)

「えっ、そうなの!?」

僕は最後の一文に、思わず声を上げて

しまう。



-----どうして咲さんの気持ちがわかるのか?



その理由を言葉にするのは、親友の弥凪でも、

きっと難しいだろう。僕も、町田さんが彼女を

気に入っているのはわかるけれど、その理由は

上手く言葉に出来ない。

まだ、出会ったばかりの二人だけれど……

人を好きになるのに、多くの時間は必要ない

のだということも、僕たちは知っている。

「そっか。あの二人、上手くいくといいな」

そう言って彼女を見つめると、弥凪は僕に

深い笑みを返した。




不意に、海の向こうに視線を戻した僕は、

あることを思い出し、彼女の手を離した。

そうして、左の手の平を上に向け、その

指先から右手の人差し指で線を引くように

スライドした。

それから、左の手の平に右手を重ねる

ように合わせ、シュッ、と撫でるように

右手をスライドする。

(水平線、キレイだね)

つい、この間教わったばかりの手話だ。

“水平線”なんて言葉を使うチャンスは

そうそうないだろう、と思っていた

けれど……

その機会は案外早くに訪れた。

僕の手話を見て、弥凪が嬉しそうに頷く。

風に散らされた前髪を、すっ、と掻き上げ

た弥凪の方が、目の前に広がる青海原より

も余程キレイだったけれど、その言葉は

上手く手話で伝えられそうになかった

ので、僕はまた、携帯を手に取った。

(そう言えば、どうして海に来たかっ

たの?)

なんとはなしに、僕は頭に浮かんだことを

訊いた。弥凪が小首を傾げる。もしかして、

何となく来たかっただけなのだろうか?

そう思っていたら、彼女は僕の携帯につら

つらと、文字を綴り始めた。