「アンバサ!!なつかしー、俺、アンバサ

も好きだったわ。飲んだ後に、何か喉に残る

感じがカルピスと一緒なんだよね。いまもある

のかなぁ?探してると、ないんだよなぁー」

互いに頷きながら、笑い合いながら、町田さん

と咲さんが盛り上がる。僕はその光景を眺め

ながら、(あれ、もしかしてこの二人……)と、

二人の間に芽生えそうな“恋”の予感に、密かに

頬を緩めた。その時だった。

つんつん、と弥凪が僕の腕を突いた。

(ん?)

いつもの合図に弥凪を向き、顔を覗く。すると、

いつの間に書き込んだのか、弥凪は文字を

綴った携帯を、こっそりと僕に見せた。

(二人ともいい感じだから、お邪魔虫は退散

しない?砂浜をお散歩しに行こうよ。気持ち

いいよ)



-----ああ、なるほど。



僕は、そういう気遣いを思いつかなかった

自分に、内心、舌を出しつつ、弥凪の提案に

頷いた。そうして、タイミングを計ることなく、

すぐに話を切り出した。

「あの……僕たち、ちょっと砂浜を散歩しに

行ってきます」

若干、いや、かなり不自然だったろうか?

海の方を指差しながら、ぎこちなくそう言った

僕に、二人はぴたりと会話を止め、顔を見合わ

せている。けれどすぐに、咲さんは

「それなら……」と、満面の笑みを僕たちに

向けた。

「わたしたちも一緒に行くよ。ご飯もデザート

も食べ終わったし」

思いがけない彼女の提案に、僕は一瞬言葉に

詰まり、弥凪の顔を覗いた。確かに、買い込ん

だ食料はキレイに完食され、ビニール袋に

まとめられたゴミが真ん中にぽつりと置いて

ある、のだけど……

“二人きりにしてあげたい”、という僕たちの

思惑は、そうと悟られないように遂行したい。



さて、どうしたものか?



ほんの数秒の間に、ぐるぐると思いを巡らせ

ていた僕の手を、不意に弥凪が握った。

そして、ぐい、と僕の手を引いて立ち上がった。

(ごめん。二人で行ってくるから、待ってて

くれる?)

そう、手話で言って、ふふ、と微笑むと、

弥凪は僕の腕に甘えるように絡みついた。

途端に、咲さんと町田さんが、したり顔で頷く。

「あっ、えっと……あはは……まあ、そういう

ことなんで……」

冷やかすような二人の視線に顔を赤くしなが

ら、ガリガリと頭を掻きながら、「はいはい。

どうぞ、ごゆっくり」と、投げかけられた町田

さんのひと言を、僕は複雑な気持ちで受け止め

たのだった。






「……気持ちいいな」

ゆるやかな潮風に吹かれながら、僕はサングラス

越しに、遥か彼方に見える水平線を見やった。

真っ青な空と、紺碧色(こんぺきいろ)の海の隙間を、

数羽のウミネコが飛んでいる。