『もしもーーし、羽柴クン。いま、大丈夫ぅ?』

明らかに、酔っぱらっている。

僕は思いきり顔を顰めながら、答えた。

「ぜんぜん大丈夫じゃないけど、大丈夫です。

どうしたんですか、急に。いま、外ですよね?」

電話の向こうからはガヤガヤと喧騒が聞こえる。

おおかた、合コンか何かの帰りだろう。と、

思っていたら正解だった。

『そうそう、いま合コン一次会で抜けてさぁ、

一人で帰るトコ。もしかして隣に市原さん

いる?これからそっち泊まりに行っちゃダメ

だよねぇ?』

はぁ……何を言っているんだ、この人は。

僕はようやく、こちらを向いてくれた弥凪

と視線を交わし、ため息をついた。

「ダメです。いま、彼女来てるんで。まだ、

この時間なら終電間に合いますよね。って言う

か、十分間に合いますよね」

僕は腰に手をあて、声に苛立ちを含ませて言った。

『いや、そうなんだけどさー。合コンで出会い

探してもなかなか良い子見つからないしね、

市原さんに誰か紹介してもらえないかなー、

って思ったのよ。側にいるならさ、ちょっと

聞いてみてくんない?誰かいい子いない?って』

「紹介って……弥凪の友達を、ですか?」

僕はさらに深いため息をつきながら、弥凪の

顔を覗き込んだ。

弥凪の友達、と言えば、僕が知っているのは

“咲さん”だけだ。気が進まないけれど、

町田さんには何かと世話になっているし、

この間、花火の穴場を教えてもらった

恩もある。僕はホワイトボードのマーカーを

手にすると、訳がわからぬまま首を傾げて

いる弥凪に、筆談で伝えた。



“電話は町田さんから。合コンでいい人見つか

らないから、弥凪の友達を紹介して欲しい、

ってゆってるけど。どうする?”



さらさらと、そこまで書いてマーカーの尻で

ホワイトボードを突く。

コンコン、と音をさせながら口を尖らせると、

意外にも弥凪はぱあっ、と花咲くような笑顔

を向けた。そして、僕の手からマーカーを

抜き取った。



“いいと思う!咲ちゃん彼氏いないし、みんな

で遊びに行ったら楽しそうじゃない?”

「えーーっ!?」

僕は予想外の返答に、思わず声をひっくり

返した。

『え、なになに!?市原さん、何だって?』

僕のリアクションに町田さんが、思いきり食い

ついてくる。

どう言うわけか弥凪は乗り気だが、まだ、

咲さんの了承を得ていないから、話を進める

わけにはいかない。

と、いうような内容を町田さんに伝えると、

事態は僕の望まぬ方へと転がってしまった。

『わかった。じゃあ、いまからそっち行くから、

“咲ちゃん”に連絡して、みんなでWデートの

計画練ろう!』

そう言うや否や、ぶちっ、と電話が切られて

しまう。