母親からの連絡後、わたはしはその足で、実家に向かった。
わたしの実家には今は父親しか住んでいない。
わたしが中学生の頃から夫婦仲が悪くなった母親と父親はわたしが一人暮らしを始めた頃に自営業のケーキ屋さんを辞めた。
その一年後、母が家を出て、離婚しないままの別居が始まった。
わたしが高校生の頃、兄は家を出て、母が家を出た頃と同時に弟も遠方へ。
わたしからしたら、こんなにも不仲なんだったら、いっその事離婚したらいいのにと思っていた。
こんなにもぐちゃぐちゃな家庭環境なのに、今更離婚しても何も変わらないよ。
「…朝日、妊娠してるんやって」
母親の言葉に父だけが嬉しそうな顔をした。
男の人はこんなに暗い顔をしている女の人の気持ちを察することが出来ないんだと思った。
「で、相手は…?」
「…」
「まさか、家庭がある人じゃないやろね」
「…」
母親の言葉に黙り込んでしまうわたしに母親は呆れていた。
「…なんなんそれっ…」
頭を抱えた母親の横で、父親がわたしに声を掛けた。
「会社は?」
「…退職した」
「え?……なんで」
「関係が終わらなかったから…」
「泣き寝入りしなあかんの?こっちが」
母親の怒りが涙に変わる。
わたしの人生で地獄の時間になった。

昔から門限が厳しかったわたしの家庭。
友達とも彼氏とすら、お泊りも禁止だった。
もしも約束の時間を過ぎてしまえば、夏でも冬でも関係なしに玄関の鍵が開くことはない。
それなのになぜか、兄と弟には門限が一切なかった。
わたしにだけ厳しい母親と、どんなことがあっても無干渉な父親の均等で平等ではない愛情の注ぎ方が気持ち悪く、違和感しかなったわたしは幾度となく反抗した。

間違ってるって認めてほしい。
おかしいって気づいてほしい。

反抗すればするほど、抵抗すればするほど、母親の無視が始まり、洗濯物が洗ってもらえなくなり、食事が作ってもらえなくなった。
母親に弟がわたしと同じように反抗しても何もない。
兄が母親に正論で言い返しても母親は何も言えない。

平等ではない兄弟関係がわたしのこころを歪ませて狂わせた。

1度だけ高校2年生の夏、どうしても友達とのお泊り会に参加したくて夜の10時ごろ自転車を走らせて向かったことがあった。
翌日の夕方無事に家に帰ることが出来たが、玄関に半泣きの母親がわたしを睨んでいたことが印象的だった。
「…なんかあったらどうすんの」
「なんかって何よ!?」
「…避妊は絶対にしなさいっ」
それだけを吐き捨て、母親はリビングへ向かった。
高校2年生やから、もう何でも知ってると思った?