「私…杏奈さんが帰ってくるのが、ずっと怖かった。」



リビングでソファーに並んで座って
冷めたカフェオレをすすった。


「ジュンちゃんや、蓮兄、有と一緒にいる生活が大切になりすぎて…仕事だってこと、忘れかけてたんだ。」


純大は私の話を静かに聞いてくれている。

膝に置かれた手のひらが温かくて、ほっとする。


「杏奈さんが帰ってきたら…私は、もうここにはいられない。だから、怖かった。」

「そんな風に思ってたんだね。」

「…杏奈さんの気持ちも同じなんだと思う。」



全てを奪われたような気持ちになっているのかもしれない。



「自分の居場所に誰かがいたら…とられたような気持ちになって…怖いよね。」


純大は少しため息をついた。


「もー、ひまりちゃんは優しすぎるよ。杏奈にあんな嫌なこと言われたのに。」



嫌なこと言われたりするのは
慣れている。



むしろ優しさとかそういうものの方が
慣れていないから、

失うのが怖いんだよ。