『恋は、
一瞬の音の様に終演し
蜻蛉の様に儚く、
夢の様な朧気なさで。
青い幻影は、滅びゆく。』

2度目の逢瀬で
カンジが
夜のベッドに呟いた言葉を
今、
思い出すのは何故だろう?

ハウワ母星人と比べるなら
遥かに長く生きる帝系人の
恋愛感情とは
如何なる心内なのかは
わたしには解らない。

母星に婚約者を持つ
わたしが言うのも可笑しな話ね。

そんな事を、刹那に考えて
わたしはカンジ吐息を背中に、
地上へと続く白い階段を昇る。

カツンカツン、、シューーー!

始めと同じ様な出口が見えて、
先頭のマイケルが
カードキーを翳すと、
確かに其所は
地下の駐車場に見えた。

「本当に駐車場なんだ!
ここって、マイケルさんとこ
が建てたビルなんですか?」

「そうよ。地下に劇場があって、
上が新しく出来たホテルなの。
これから開業だから、無人だし
拠点には丁度良い所でしょ?」

異世界人の彼等は
一時的にマイケルのホテルへ
滞在するという。

それにしても、
聖女と呼ばれるトモミが、
キョロキョロして、
マイケルに建物の
位置関係を聞くのだから、
確かに彼女は、
この時間軸で生きていた
都会の高校生だったのだろう。

『皇子だけで良いのか?』

入り口の管理室で、、


魔導師フーリオに対価を
求められたカンジは、
長い指に
銀色の飾り爪を装着しながら
問い掛けた。

わたしの時には首元に直接
噛み付いてダウンロードしたのに
本来は、道具を使って他者に
細胞変異の液を流せるらしい。

螺鈿飾りの付け爪は、
カンジの先祖達から牙を
譲り受けたモノを
細工していると、
説明をしながら
説き伏せられた皇子の
襟首に
カンジは爪を立てたのだった。

『あったし、ここに戻りたかった
から、いりません。本当は、
元世界に戻る為に聖女役してた
んだもん。普通の体じゃないと』

聖女といわれるトモミは、
とても打算的な高校生だった。
元の世界に戻った彼女は、
この後の討伐隊に
加わるのだろうか?

それを聞こうと
わたしが聖女トモミに声を
描けようとした時、

「マイケルぅ~!こっちぃ!
ホントさぁ、僕に何でもフルの
は、やめてくれないかな~。」

「あー!ハジメ!謝謝ー!
何でもじゃないわよ。貴方じゃ
ないと出来ない事しか頼んで
ないからねー!あ、紹介するわ」

地下駐車場の奥から
白いスーツを着た男が
マイケルに声を掛けて
やって来た。

「ふぅん、彼等が異世界人たち?
見た目は普通ーなんだねぇ~。
神隠しにあったマイケルから
話を聞いてなけりゃ、信じられ
ないぐらいだよねぇ~。でぇ
この少年が、件のマスターかぁ」

新手の人物は
タレ目気味な瞳を細めて、
わたしやカンジ、
後ろに続く3人までを
上から下まで
スキャニングして、

大師少年の前で、止まった。

「マイケルを保護した時にいた、
美術家か。何かと精通している
からか、余り驚かないのだな。」

そんな人物の登場にも
躊躇なく
大師少年は不遜な言い回しを
しながら、
白スーツのタレ目男に微笑む。

「画商なんですよん。これでも
っ。マイケルにはぁ、
便利屋みたいにぃ使われて
ますけどねん。今回も、車を
手配しろっていうから~。」

苦笑して彼が示した場所には、
見た事のない車が
停められいる。

「セレブクオリティの、
キャンピングカーですよん。
マイケルの自国で作られた新作。
たまたま~モーターショーにぃ
出すつもりでぇ入庫させてたん
だけどなぁ。勘弁してほしい。」

「いいじゃない、また送るから。
それで移動ギャラリーでも何
でも使いなさいよ。じゃ、
ハジメは、説明をお願いね!」

不満を無視しながらも、
マイケルは彼に
カンジに車の説明を促し、

カンジ達が車内に入れば
今度は間髪入れず
魔導師フーリオに、

「悪いけど、この車には認識障害
の魔法を掛けてくれない?
完璧じゃなくて、記憶しにくい
とか、認識が薄くなるとか系で」
と、
依頼をしてくれた。

「あの、もう対価分はして
もらってます。これ以上は、」

「いいのよ、貴方達に会ったのは
偶然じゃないと思う。後で大切
になりそうだって予感するの。
先行投資ね。ついでに、カード
と、電話を持って行って。
どこでも使えるし、現金も出せ
る。逃亡と、捜索の資金よ。 」

マイケルは、
息子皇子と聖女トモミにも
何かを話し掛け、
魔導師フーリオに合図をする。

わたしは、
周りを見渡して防犯カメラを
数台見つけた。

どちらにしろ、マイケルが
何らかと対処と研究にでも
するだろう。

わたしは、マイケル・楊という
華僑令嬢を信用する事に
したのだ。

向こうの管理室であった様な
派手な閃光や、風圧が生まれる
でも無く、
キャンピングカーは、
魔導師フーリオの詠唱で、
揺らめく空気に包まれる。

「母上は人使いが荒いな。」
「親子ですよねー。」

息子皇子の文句と共に
魔導師フーリオの揶揄と
指音が響いて、
元の地下駐車場の静寂になった。

「未来人アヤカよ。ここで袂を
分かつが、何かあれば呼ぶが
いい。この時間軸ならば、
僅かでも出向けるだろうよ。」

大師少年が、わたしの前に
出て来て手を差しのべる。

「何の縁もない、わたし達に
過分な御心寄せを、ありがとう
ございます。良いのでしょうか」

「何、お主と我は少し似た
性分をしておる。時代が、時代
なれば、お主達一族は我と同じ
役を担っておった様に感ずる」

理由はそれだけよの、と
大師少年が笑うので、
わたしも思わず差しのべられた
手を取り握手した。

「以上~!説明は概ね出来たよ
ん。じゃあ、お代はマイケルね」

カンジと白スーツの彼が
車から降りて来る。

「何かあれば、電話すればいい
からね。そこのタレ目男の
ハジメも骨董とか扱うからか、
勘がいいのよ。『ギャラリー
探偵』なんて呼ばれたりする
から、サポート出来るはず。」

確かにこれから、
わたし達が探すオーパーツで
アドバイスを貰えるかも
知れない。

「レディ・マイケル。本当に
ご支援ありがとうございます」

「いいってことよ!異世界での
心細さは知ってるから。
こーゆー 時に華人は恩を惜しま
なく売っておくのよ。武運を」

わたしの後ろに立ったカンジも
マイケルに手を差し出す。

また会うことになる。

そんな予感を孕んだまま、
わたし達は
用意された車に乗り込み
振り返る事すらしないまま
地下の世界から出発をした。

こうして奇妙な異世界人達との
時間交差は終わり、

わたしとカンジは

星からの逃走をしながら
『ファースト・アップル』を
探す旅に出た。