恋は、溜息とともに立ち昇る烟。
浄められて、瞳閃く炎となり、
乱されて、、

涙溢れる大海ともなる。


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(巴の御前も竹取りの姫も 駿河山麓に身を潜めていたのなら、カンジと次に行くべき場所は決まってるわ。)

 オーバーリヴァイブを強制終了したが故に
一瞬にして暗闇に落とされた空間で、思考を巡らせてみる。

『ガサ、、』

(全く見えないなんてね。)

 脆い岩壁に手を付いて、壁伝いに歩こうとしても土台無理。

 旧地球絶滅種であるヴァンパイアを始祖に持つアーダマ帝系人のカンジならば、闇でも目が効くだろうけれど、生憎わたしはハウアー母星人。
 漆黒の闇に恐怖を覚えない訳がない。

「何処までも、わたしとカンジには闇夜が付き纏うのかもしれない、、」

(最後に行き着く先は、堕ちるだけのエンディングなのかしらね。)

 全く前後不覚の冥闇に動く事も出来ずに、手探りで壁へと背中を寄せて佇む。

、、そして、あの子男との再迎合は突然だったの。

『スル、グッ、グッ✕』

「お探し物の匂いにゃ、たどりついたかい?」

 耳元で聞こえた声と共に、首を撫でるように締める感覚がくる。

『ヌラン✕』

(あら、カンジと初めての時も、確か、、死神の様な顔をしたカンジに、、)

 一瞬記憶が カンジとの思い出に支配されている内に、漆黒の闇に青白く発光する、子男の顔が浮かび上がある。

 其の顔から下には手足の無い長い胴が続き、周りに大小の繊毛運動をする軟体物が蠢いている。
 土の中を這い回る軟体の妖怪と言えば、、

「貴方、加夫羅太伊だった訳ね。」


「御名答!」

『ヌルリ✕』

 わたしの脚に卑わいに纏わり付く長い生き物。

『ガッ!!』

 ボンヤリと発光する長い胴を、と勢い良くヒールで踏み付ければ、いとも簡単に千切れるのだけれど。

『ザラリ、、✕』

「残念だな、切っても増えるだけだぞ?」

「、、、」

『タラタラタラ✕』

 脚で踏みつけ千切れたはずの長い発光体が、意志を持つかの如く執拗に、わたしの脚の間を登ってくる。

「お主も不思議な女だな、あの男も。人では無いからか?こんなにも触りが良いのも久方ぶりなあ。」

『ヌチャリ✕』

 ミミズは雄雌胴体の生物。

 ならば男女どちらにも興味があるのでしょうね。ああ、同時に交ぐわるなんて芸当も有るのかもしれない。

(肌触り、、ね。少しだけ解る気がする。)

 決して子男のでは無い。

 旧消滅地球での男女の烈情の行為を営んだ時に、カンジが同じ様な言葉を漏らしたのよ。

『グチ✕』

「あの男の具合は、どうなんだ?」

 暗い地下伽藍の中で、今度は首だけでなく、腰にまで巻き付く肌触りがして、正直気持ちが悪い。こんな感覚は感じたことが無い。

「下衆い妄想に答える義理は、ないわ。」

 
『ミチミチ✕』

 (わたしもカンジも、この時間軸では幻。タイムリープで身体はダイブインしているけれど、どこか感触が曖昧なのよ。その意味では妖し達と同じなのかもしれない。)

「何を考えている?男の助けか?」

 そもそも踏み付け千切った方に生殖器があったなら、加夫羅太伊に弄ばれることになる。

(ましてカンジ以外なんて冗談じゃない。)

 ハウアー母星から隠密としてタイムリープした令嬢が、わたし。
 か弱いだけの女では無いけれど、切れば増えるだけの妖怪に、肉弾戦は得策じゃない、、

「加夫羅太伊、貴方、紀州が根城じゃないの?」

「お前、よくそんな昔の事を知っているな?」

『ジュワリ✕』

 再び太腿に冷たい軟体感触がすると、千切れた胴を股に押し付けられると同時に、子男の頭が2つに割れると、わたしの口を覆ってくる!!

「男の匂い、身体中からするぞ?お前!」

(今ね!)

 覆われた口内を犯すように蠢く繊毛が入り込むのを片手で剥がしながら握った物を捩じ込む。

 同時に反対の手もを股に回して、押し付けられる生殖穴に握った物を放出させてやるの。

『ブワッ!!!』

「げ、」

 (そう、手に掲げる鈴の音を空間に共鳴させる、、リヴァイブと同じエネルギーベクトルを掌から加夫羅太伊の中に放出!!)

「ぎゃーーー!!海が!塩が!!」

「巫女の血筋を舐めないでね。常に聖塩は持っているの。」

 発光していた加夫羅太伊の表面層が溶けて、体液が発光しながら蒸発している。
 奇しくも、その状況が漆黒の闇に再び灯火となって辺りを照らすのは、少しだけ幻想的。

「意外、リヴァイブのエネルギーベクトルを意識したからなの?」

 蒸発した体液が発光粒子となって、地下伽藍の壁面に付いたからなのか、一瞬にして迷宮は青白い輝きを放っていく。

「ぁー、ㇰー、」

 醜い声が聴こえるから足元を見ると、わたしのハイヒールの下で小さくなった加夫羅太伊がピチピチと胴をクネらしている。

「あら、可愛らしくなったのね。」

「ぅー、」

 わたしの人差し指程度の大きさまで縮んだ身体を、惨めにも蠢かして伽藍の土塊の中に逃げようとしている憐れな加夫羅太伊。

「どうせ、わたしの方が簡単に犯せると思ったのでしょ?お生憎さま。」

 性懲りもなく睨んでくるから、頭の口部分に指先を押し付けて、わたしは加夫羅太伊に微笑むの。

「わたしの最愛に触れようなんて、未来永劫許さないわ。でも、貴方沢山のヒントをくれたのね?」

「ゎゎゎ、、」

 頭に押し付けた指先に聖塩を出して、穴へと突き刺す。

「もう逝っていいわよ。リヴァイブ。」

わたしが言葉を紡ぐと同時に、縮んだ加夫羅太伊の胴が弾け飛んだ。

「三郎も紀州に逃げたというものね、、」

 加夫羅太伊の体液で伽藍が明るくなると、出口から流れる空気にも粒子が漂うから、自ずと自分が行くべき道が解る。

(粒子が出口も教えくれるのね。)

 カンジが直ぐに迎えに来てくれる。

 そんな予感がして、わたしはハイヒールを履き直した。