カンジと2人。
朱色鮮やかな舞殿から先に伸びる階段を、
腕を組みつつ並んで昇る。

カンジは身体が離れる事を
好まない。
下手すれば、わたしを横抱きに
抱えて上げて階段を
昇るぐらい。

流石に目立つから、
自分の足で歩かせてもらう。

「やっぱり何百年も立つと、変わ
るものね。舞殿は回廊で繋がっ
ていたもの。え、あれ、、」

途中には、巨木、ではなく
銀杏の大きな切り株と
隣に新しい若木の銀杏が並ぶ。

「どうやら、あの巨木は
今時間軸では倒れた様だ。
不思議だな、、この時間軸でさ
え、もう過去なのだからな。」

わたし達がリヴァイブで鎌倉時代に身を隠した巨木。
其れが今時間軸の
わたし達の前では
切り株姿で残り、
隣に新しい命を芽吹かせる。

此の時間軸の人の手によって
紡がれた銀杏。

「白拍子様は、絶世の美女だった
わね。とても、お腹に子供が
いるとは思えない舞いだった。」

わたしは、
若木の横を通り過ぎながら呟いた。

「俺にとって、真なる美しはアヤ
カが初めてだ。ただ、、
鎧姿に大薙刀を持つ愛しい女が、
別れるならいっそ殺せと涙に崩れ
るのは堪えるだろうな。」

カンジは前を向いたまま階段を上がる。
その横顔を見つめて、

「歌を読むのよね。自分の代わりと渡された鏡を前に、『見ても嬉しくもない。貴方の影を映すわけでもないのだからって。』、、
カンジ、、もしも、、貴方の追手が来て、、どうしようも無くなれ
ば、、」

わたしは言い淀んだ。
今日、
わたし側の追手が、現に
母星からやって来たのだから。

「悪いが、置いては行けない。
白拍子と別れた様にするが、
正解なのだろうが。」

階段を登りきると、
舞殿と同じく朱色に彩られた
本宮になる。

カンジが、わたしに参拝を
視線で聞きながら、
酷く云い難そうに言葉を繋ぐ。

「憎くき敵側だと知った日。なのにアヤカのことは何故に慕わしい。知らず逢った俺が、もう
手遅れだったんだ。ならばと決め
た事が、、ある。」

そこまで告げて、
カンジは旧地球の日ノ本の慣例に
習った様式で、
二度と礼をすると
手を打ち鳴らす。

わたしも、
カンジの横で同じ様に
二度と礼をして手を鳴らした。

そのまま観光客に紛れて、
階段を下る為に振り替える。

「わあ、海まで参道がよく見える
のね。鳥居まで見えて。」

山と海が近い中に都が作られたが
故の景色が広がって、
わたしは声を上げた。

階段を見下ろせば、
先程は居なかった神前結婚の列が
舞殿に向かうのが見える。

わたしは、
少しだけ胸がキュット締め付け
られる感覚になる。

「カンジ、、さっき何を祈った?」

足下で戯れる新郎新婦を
わざと話題にしない問い掛けを、
わたしは
カンジに投げてみた。

「・.・・」

「カンジ?」

「きっと、愛し過ぎるアヤカを、
いざとなれば、此の手に掛け、
俺も逝く。アヤカは赦して
欲しいと、、だけだ。」

カンジの言葉に、
わたしはもう一度カンジを見る。

「捕まれば、互いに酷い仕打ちと
なるのは当たり前の事だから。」

明日は、カンジ側の追手かも
しれない。
カンジは閃光の様な強い眼差しで、
わたしの事を包む。

「じゃあ、わたし達には
死が別つまでの誓いさえ、
越えて一緒なのね?カンジ。」

母星では旧地球の様な
結婚式の文化は既にない。
ハウア母星貴族の社交会の折りに、
白き正装ローブを着用して、
星教皇の前で宣誓をする。

わたしとカンジには、
そんな未来はない。

「わたしの事。カンジにあげる
わね。カンジの中で、
ばらばらにして星にしてくれ
たらいい。約束よ、カンジ。」

わたし達は 、きっと旧地球に
その屍さえ残せないはず。

カンジは、
階段の上なのに、
わたしを抱きしめて、
耳元で

「必ず見つける。」

とだけ言うの。

何がとは言わない。

云わなくて分かる。

わたし達の明暗は
ファーストアップルだから。