正午の日差しが照る
白い首都の高速を、車は
南に走る。
其れは次第に
首都ならではの風景から
自然な山々の連なりに
変えて、快晴の空の下に広がる
街内へと続く。
「・・・・」
無言で。無音。
地下ライフライン沿いに
移動をしていた騒々しさが
幻の如く、
BGMの彩りも無く、沈黙。
(思えば、、)
カンジに会う部屋には
音楽が鳴る事も、映像が点いて
いる事も無くて、
其処には
艶かしい夜だけが横たわり、
聞こえるのは
わたし達の悶える息遣いだけ。
月明かりに、
汗ばみ息を荒げる
カンジの顔を見れるのだから
夜は
ひとつも暗くはなくて、
わたしにとって
燃える様な闇夜は
知っている夜とは似つかない
異形の夜。
何時ものホテルの、、
同じ号数の扉の前に佇んで
ノックをすれば
無言で開かれるドアの中に、
カンジの焦がれ燃える瞳が
闇夜に浮かんで
何時でも
わたしを捕獲した。
『カンジ、、』
わたしが次の言葉を繋ぐのを
『来い。』
不躾なまで遮る様に、
カンジが
わたしのシフォンブラウスの肩を
鷲掴んで部屋に
引き摺り込むと、
締めたドアを檻に逃げぬよう、
顎に指を掛けてゆっくりと
口から舌を捉えるのが
始まり。
薄く灯された月光が造る
服のままに互いの影が
縺れ合い、
壁一面の窓から
月だけが
カンジの獣と貪り蠢く背中や、
噛み揉まれ
揺さぶられる
わたしを
見ていた。
カンジが帝系人なのだと蒼空で
知り得た時でさえ、
貴方と思う光景は何時だって夜。
だからなの?
神々しい昼光の下、
隣でハンドルを握るカンジの姿が
まるで聖人君子さながら
妙に眩しくて、
面映ゆく、眩暈に襲われ
「酷く、非現実的な気分かも。」
と、
呟いてしまった。
「月の下でなら、気不味くない
逢瀬なのに、か、、アヤカ?」
低く響く言葉送りは、
相変わらずで
(言い方が、狡い。)
車を操りながら、
フロントガラスを見つめる
カンジが
わたしを横目で見留めて
薄い口角を満足気に上げている。
そもそも此の肢体の奥、
何から何まで形を造られ、
処女の味さえ啜られている
わたしなのだから。
「カンジは、心も読める?」
いつか陽の光の下で、
カンジと歩きたいと
欲した
清廉潔白な乙女な世界。
叶うと、
居心地に困っている
自分を
見つけてしまった、
この胸の内。
すっかり夜の女でしょ?
「番は目で見なくとも、心で
見れる。絵描かれた天使が
目を隠しても矢を射抜くと
同じ様に、、
陽の光で、アヤカに姦じるのは
俺も一緒だという事だ。」
(やっぱり、お見通しだわ。)
これでも、わたし
本当は成人前の少女なのに。
どこか色香な意地の悪るい
台詞を吐息に、
カンジは
ハンドルから片手を離して
わたしの手の甲をスルリ撫で
上げた。
存外この仕草が、胸にくると
知っていて昼日中にするのが
質が悪い。
けれど、
カンジが、わたしの手を
好きに弄ぶ腕には、
もう彫り物は見えなくて、
安堵もする。
「不思議ね。本物の魔法なんて」
「身体の中に影響を与えられない
魔法と、身体の外に影響を与え
られない特異能力の相違を、
改めて理解する出逢いだった。」
カンジは、わたしの指に
幾つもの音を吸い立てる口付けを
落として応えると、
視線で国道沿いの傍らを促す。
「ああ、、こんなに咲いてるの」
国道沿いの雑木林も
秋の風に茜色や橙色へと
彩り鮮やかで、
この国の趣を感じるに
充分だったけど。
墓園近く。
紅葉の
山壁にひっそりと群生する
山花。
本の花穂の先に揺れ、
白い花穂が2本でひとつに
なって開いている。
「二人静だな。」
カンジが
まるで中今、わたし達を
想わせる山花の名を
わたしの手の甲を再び弄びながら
低く響く様に唱えた。
悲恋の若将と白拍子を
名に秘めた和草、、
中世時代、
この国の政治を束ねる将軍が
座してきた古い街へと、
車を進める中だ。
わたしとカンジが向かう先は、
彼女が八幡大菩薩に献舞をした
回廊の跡社。
カンジが注ぎ込んだデータと、
わたしに積み上げられたデータが
既に脳内演算され、
選出された場所。
『ファースト・アップル』に
繋がると、思わしき候補地が
幾つか
絞り込まれている。
「カンジは、どう思う?」
わたしは二人静の群生を
道端に、問うてみる。
「この星にある無数のオーパーツ
には分類があると帝系では考え
ている。異星軸人による持ち込
み、高度消滅文化の遺物、
そして、、聖遺物エネルギー
産物。しかし『ファースト・
アップル』は聖遺物その物。
かつて創造主が行使した物だと
考えるが、、其のモノ形状は、
未だ確定していない。が、、」
カンジが全てを言い終わるが
前に、
白い可憐な群生は車窓から
流れて消える。
「聖遺物エネルギーの産物、
というよりも、聖遺物その
モノの欠片が、この土地に
あったと思える、、でしょ?」
わたしは、カンジの言葉を
繋いで応える。
『ファースト・アップル』は
聖遺物の最たるモノ。
国や大陸、星1つを、産み出す
力を秘めた創造遺物。
カンジは、
もう彫り物が見えない腕を
わたしの手の甲から
惜し気にゆるりと離して、
ハンドルをカーブに切って行く。
「武将文化の隆盛で初めて、
都ではない場所に国の政を
治めた場所。であるうえに、
膨大なエネルギーが歴史的に
集まる傾向にある。聖遺物、
その片鱗があったからこそと、
考えるのは俺だけじゃない。」
何よりこの地域の史実には、
弾圧の僧が祈りで星を動かしたと
あって、
其れは当時各地で認められたと
見物書に残るけれど、
となれば隕石だった可能性も
あるから、、
「聖遺物の共鳴現象よね。」
わたしの言葉に、
カンジは頷いてブレーキを掛けた。
わたし達が乗る車が
紅葉が見える朱塗りの参門に
静に着いたのだ。
「白拍子の彼女が、巫女体質
だったならば、必ず聖遺物が
引き寄せるはずだもの。」
わたしが
駐車場に車を入れるカンジに、
独り言の様に呟くと、
「アヤカと同じだな。一目見ただ
けでアヤカに籠る力が、激しく
俺を揺さぶり抗えなく誓わせる」
エンジンを止めたカンジが、
スルリと
わたしの右耳輪を擽り降りて
頬から鎖骨へと倣ぞる。
「ヤれるのか。」
これから、此の場所で行うのは
わたし達
ハウワ母星の神官貴族が行う
リヴァイブー再幻。
いつも王の表情で魅了する
カンジが
こんな風に珍しく躊躇するのは、
例え脳内データの共有をした
としても、
リアルでは未知数の体験になる
から。
「不安?」
土地の記憶を幻影再現で、
透視するリヴァイブ。
「リヴァイブは、帝系人には
未知の領域だ。想像もつかな
い。危険はないのかアヤカに」
何処までも、
わたしに負担がないのかと
カンジの切れ長の瞳が
わたしの中に偽りを探る。
「なら、カンジも来て。きっと
リンクインできるから。」
わたしは微笑んで、
カンジの手を握った。
都から離れたこの土地に
武士文化が根差して
初の武将代政権が統治した際、
都から幾つもの宝物が
下賜されている。
それらを時間を遡り視るのだ。
「もし、アヤカに負荷があるなら
俺が担う。全部渡してくれ。」
言い募るカンジにわたしが
頷くと、
カンジが先に車を降りて、
ドアを開けてくれる。
社は紅葉の山に囲まれて
参詣門は見上げた先にある。
「カンジと陽差しを歩きたいと
願っていたのが叶うのね。」
わたしは満面の笑みで、
後ろからエスコートするカンジに
振り返って告げた。
わたし達の仲は禁断の関係。
追っ手もその内やって来るだろう。
「陽の当たる逢瀬の初めが、
悲恋の社では格好もつかない。」
都の雨乞い祈祷で、
唯一
雨を降らせた悲恋の白拍子。
彼女はこの地で2度の舞を
見せて、
宝物を2度賜わり、
彼女が帰京する際には、
手にした杖を
桜の樹木へと変化させた
逸話もある。、、なら、
かの宝物は聖遺物の杖である
可能性がある。
車から出てると、
金木犀の香りした。
白い首都の高速を、車は
南に走る。
其れは次第に
首都ならではの風景から
自然な山々の連なりに
変えて、快晴の空の下に広がる
街内へと続く。
「・・・・」
無言で。無音。
地下ライフライン沿いに
移動をしていた騒々しさが
幻の如く、
BGMの彩りも無く、沈黙。
(思えば、、)
カンジに会う部屋には
音楽が鳴る事も、映像が点いて
いる事も無くて、
其処には
艶かしい夜だけが横たわり、
聞こえるのは
わたし達の悶える息遣いだけ。
月明かりに、
汗ばみ息を荒げる
カンジの顔を見れるのだから
夜は
ひとつも暗くはなくて、
わたしにとって
燃える様な闇夜は
知っている夜とは似つかない
異形の夜。
何時ものホテルの、、
同じ号数の扉の前に佇んで
ノックをすれば
無言で開かれるドアの中に、
カンジの焦がれ燃える瞳が
闇夜に浮かんで
何時でも
わたしを捕獲した。
『カンジ、、』
わたしが次の言葉を繋ぐのを
『来い。』
不躾なまで遮る様に、
カンジが
わたしのシフォンブラウスの肩を
鷲掴んで部屋に
引き摺り込むと、
締めたドアを檻に逃げぬよう、
顎に指を掛けてゆっくりと
口から舌を捉えるのが
始まり。
薄く灯された月光が造る
服のままに互いの影が
縺れ合い、
壁一面の窓から
月だけが
カンジの獣と貪り蠢く背中や、
噛み揉まれ
揺さぶられる
わたしを
見ていた。
カンジが帝系人なのだと蒼空で
知り得た時でさえ、
貴方と思う光景は何時だって夜。
だからなの?
神々しい昼光の下、
隣でハンドルを握るカンジの姿が
まるで聖人君子さながら
妙に眩しくて、
面映ゆく、眩暈に襲われ
「酷く、非現実的な気分かも。」
と、
呟いてしまった。
「月の下でなら、気不味くない
逢瀬なのに、か、、アヤカ?」
低く響く言葉送りは、
相変わらずで
(言い方が、狡い。)
車を操りながら、
フロントガラスを見つめる
カンジが
わたしを横目で見留めて
薄い口角を満足気に上げている。
そもそも此の肢体の奥、
何から何まで形を造られ、
処女の味さえ啜られている
わたしなのだから。
「カンジは、心も読める?」
いつか陽の光の下で、
カンジと歩きたいと
欲した
清廉潔白な乙女な世界。
叶うと、
居心地に困っている
自分を
見つけてしまった、
この胸の内。
すっかり夜の女でしょ?
「番は目で見なくとも、心で
見れる。絵描かれた天使が
目を隠しても矢を射抜くと
同じ様に、、
陽の光で、アヤカに姦じるのは
俺も一緒だという事だ。」
(やっぱり、お見通しだわ。)
これでも、わたし
本当は成人前の少女なのに。
どこか色香な意地の悪るい
台詞を吐息に、
カンジは
ハンドルから片手を離して
わたしの手の甲をスルリ撫で
上げた。
存外この仕草が、胸にくると
知っていて昼日中にするのが
質が悪い。
けれど、
カンジが、わたしの手を
好きに弄ぶ腕には、
もう彫り物は見えなくて、
安堵もする。
「不思議ね。本物の魔法なんて」
「身体の中に影響を与えられない
魔法と、身体の外に影響を与え
られない特異能力の相違を、
改めて理解する出逢いだった。」
カンジは、わたしの指に
幾つもの音を吸い立てる口付けを
落として応えると、
視線で国道沿いの傍らを促す。
「ああ、、こんなに咲いてるの」
国道沿いの雑木林も
秋の風に茜色や橙色へと
彩り鮮やかで、
この国の趣を感じるに
充分だったけど。
墓園近く。
紅葉の
山壁にひっそりと群生する
山花。
本の花穂の先に揺れ、
白い花穂が2本でひとつに
なって開いている。
「二人静だな。」
カンジが
まるで中今、わたし達を
想わせる山花の名を
わたしの手の甲を再び弄びながら
低く響く様に唱えた。
悲恋の若将と白拍子を
名に秘めた和草、、
中世時代、
この国の政治を束ねる将軍が
座してきた古い街へと、
車を進める中だ。
わたしとカンジが向かう先は、
彼女が八幡大菩薩に献舞をした
回廊の跡社。
カンジが注ぎ込んだデータと、
わたしに積み上げられたデータが
既に脳内演算され、
選出された場所。
『ファースト・アップル』に
繋がると、思わしき候補地が
幾つか
絞り込まれている。
「カンジは、どう思う?」
わたしは二人静の群生を
道端に、問うてみる。
「この星にある無数のオーパーツ
には分類があると帝系では考え
ている。異星軸人による持ち込
み、高度消滅文化の遺物、
そして、、聖遺物エネルギー
産物。しかし『ファースト・
アップル』は聖遺物その物。
かつて創造主が行使した物だと
考えるが、、其のモノ形状は、
未だ確定していない。が、、」
カンジが全てを言い終わるが
前に、
白い可憐な群生は車窓から
流れて消える。
「聖遺物エネルギーの産物、
というよりも、聖遺物その
モノの欠片が、この土地に
あったと思える、、でしょ?」
わたしは、カンジの言葉を
繋いで応える。
『ファースト・アップル』は
聖遺物の最たるモノ。
国や大陸、星1つを、産み出す
力を秘めた創造遺物。
カンジは、
もう彫り物が見えない腕を
わたしの手の甲から
惜し気にゆるりと離して、
ハンドルをカーブに切って行く。
「武将文化の隆盛で初めて、
都ではない場所に国の政を
治めた場所。であるうえに、
膨大なエネルギーが歴史的に
集まる傾向にある。聖遺物、
その片鱗があったからこそと、
考えるのは俺だけじゃない。」
何よりこの地域の史実には、
弾圧の僧が祈りで星を動かしたと
あって、
其れは当時各地で認められたと
見物書に残るけれど、
となれば隕石だった可能性も
あるから、、
「聖遺物の共鳴現象よね。」
わたしの言葉に、
カンジは頷いてブレーキを掛けた。
わたし達が乗る車が
紅葉が見える朱塗りの参門に
静に着いたのだ。
「白拍子の彼女が、巫女体質
だったならば、必ず聖遺物が
引き寄せるはずだもの。」
わたしが
駐車場に車を入れるカンジに、
独り言の様に呟くと、
「アヤカと同じだな。一目見ただ
けでアヤカに籠る力が、激しく
俺を揺さぶり抗えなく誓わせる」
エンジンを止めたカンジが、
スルリと
わたしの右耳輪を擽り降りて
頬から鎖骨へと倣ぞる。
「ヤれるのか。」
これから、此の場所で行うのは
わたし達
ハウワ母星の神官貴族が行う
リヴァイブー再幻。
いつも王の表情で魅了する
カンジが
こんな風に珍しく躊躇するのは、
例え脳内データの共有をした
としても、
リアルでは未知数の体験になる
から。
「不安?」
土地の記憶を幻影再現で、
透視するリヴァイブ。
「リヴァイブは、帝系人には
未知の領域だ。想像もつかな
い。危険はないのかアヤカに」
何処までも、
わたしに負担がないのかと
カンジの切れ長の瞳が
わたしの中に偽りを探る。
「なら、カンジも来て。きっと
リンクインできるから。」
わたしは微笑んで、
カンジの手を握った。
都から離れたこの土地に
武士文化が根差して
初の武将代政権が統治した際、
都から幾つもの宝物が
下賜されている。
それらを時間を遡り視るのだ。
「もし、アヤカに負荷があるなら
俺が担う。全部渡してくれ。」
言い募るカンジにわたしが
頷くと、
カンジが先に車を降りて、
ドアを開けてくれる。
社は紅葉の山に囲まれて
参詣門は見上げた先にある。
「カンジと陽差しを歩きたいと
願っていたのが叶うのね。」
わたしは満面の笑みで、
後ろからエスコートするカンジに
振り返って告げた。
わたし達の仲は禁断の関係。
追っ手もその内やって来るだろう。
「陽の当たる逢瀬の初めが、
悲恋の社では格好もつかない。」
都の雨乞い祈祷で、
唯一
雨を降らせた悲恋の白拍子。
彼女はこの地で2度の舞を
見せて、
宝物を2度賜わり、
彼女が帰京する際には、
手にした杖を
桜の樹木へと変化させた
逸話もある。、、なら、
かの宝物は聖遺物の杖である
可能性がある。
車から出てると、
金木犀の香りした。