「里花が離婚する手助けをしたと自分では思ってる。決めたのは里花だけど、手を引いたのは俺だ。里花は、俺に恩を感じて一緒になってくれたんじゃないかって、少しだけ考えていた」
「なんで……そんな」
「俺は昔から里花が好きだった。里花が俺を兄のように思ってくれていることを、利用してしまったかもしれない。俺の好意を知っていて、恩があって断れなくて、里花は俺を受け入れたのかと……」
「馬鹿なことを言わないで」

私は箸を置き、キッと奏士さんを睨みつけた。

「好きじゃない人と結婚して不幸せだった私が、また好きでもない人との未来を選ぶわけない。私はずっと三栖奏士さんが好きよ。子どもの頃から」
「里花」
「以前もちゃんと言ったのに、信じてくれていなかったの?」

奏士さんが立ちあがり隣にやってきた。そして、泣きそうに顔を歪めた私の頭をかき抱いた。

「ごめん、里花。俺の些細な不安で傷つけた。里花を信じているのに、すまない」

大きな手が私の髪を梳き、背を撫でる。私は彼の鎖骨に頬をこすりつけ、目を伏せた。
不安から相手を傷つけてしまうことは、私似も経験のあることだからわかる。私も同じように奏士さんの心を疑ってしまったことがあったもの。