「アナとマノンには毎日あちこちに付き合わされているんだ。正直、仕事を圧迫されるくらいにね。さらに貴重なプライベートを邪魔されてはたまらないよ」

奏士さんはなんでもないと言わんばかりに答えた。

「ただ、完全に無視もできないのは事実なんだ。アナは重要な取引相手だしね。日本にいる間はゲスト。楽しい思い出くらいは作ってやらないと。その分、里花には退屈させて申し訳ない気持ちだよ」

私は言おうか迷って、言葉にした。

「あのさっき」
「ん? フィアンセって聞こえてた?」

悪びれもせずに答えられて、私は頬が熱くなるのを感じた。
前言撤回。私に、聞こえてもいいと思っていたんだ、この人。そうして、私がどんな顔をするか見ていたに違いない。

「宣言しておかないとな」

悪びれない言葉に、私はいっぱいいっぱいになってしまう。

「早く本物のフィアンセになれるように俺も頑張るよ」

精悍な笑顔で言う奏士さん。この人には敵わない。
ランチタイムは短い時間だったけれど、奏士さんの気持ちに触れた嬉しい時間だった。