しかし、この日から奏士さんはすっかりアナ親子につきっきりになってしまった。
通訳も秘書もいるはずなのに、アナ・ミラーは自分と娘の日本でのアテンドを奏士さん頼りにしているのだ。奏士さんもアナをビジネスパートナーであり、友人だとみなしているようで、無下にできない状況らしい。奏士さんは毎晩アナ親子の行く先に同行し、空いた時間は仕事にかかりきり。とても私と会う余裕はない。

【里花、本当にごめん】

奏士さんからは謝罪のメッセージがきた。アナ親子のことも彼自身から説明があった。
アナたちは来週末には帰国だと聞いている。つまりは二週間丸々、奏士さんは拘束されることになる。

【せめてランチを一緒に食べないか? 宮成商事の近くに行くから。ランチだから焼肉はやめておこうか】

しょんぼりしていた私に、奏士さんが提案してくる。一も二もなくOKだ。
当初の予定から四日遅れで、私は奏士さんと会うことができた。予約をしておいたダイニングカフェで向かい合う。
帰国当日に会ってからまだ二週間も経っていないのに、ものすごく久しぶりな感覚がした。近くにいると思うと、どんどん欲深くなってしまう。もっと会いたいと思ってしまう。

「里花、約束守れなくてごめんな」
「いいえ。お仕事だもの」

私は笑顔になる。奏士さんと会えたのだ。今はこの時間を楽しみたい。