私が明らかにショックを受けていることに気づいたのか、沙織さんが慌てて言う。

「でも、奏士社長は里花さんひと筋だから! マノンと出会ったときは、まだ里花さんと再会していなかったけれど、最低限の礼儀を尽くしただけで相手にしてないよ」
「でも……」

彼女に限らず、奏士さんの周囲には魅力的な女性がたくさんいただろう。自分がとたんにちっぽけな存在に感じられる。沙織さんは私の様子を気にして、言葉を続ける。

「奏士社長だって大人の男性だし、きっとまったく女性関係がなかったということはないと思う。だけど、私が下についてからは、そういった様子は一度もないの。仕事命って感じで、女性は仕事関係者以外とは会いもしないわ。仕事で知り合う女性だって、好意を見せてくる女性は避けてたように見えた。だから、忙しい合間を縫って会いたがる里花さんは、本当に本気の相手なんだと思う」
「ありがとう、沙織さん」

沙織さんの励ましはありがたかった。しゅんとしぼんでしまった心がわずかに息を吹き返す。
そうだ、奏士さんは私を、と望んでくれているんだもの。勝手に気にして暗くなるのはやめよう。
たとえ今、奏士さんがその女性と食事をしていても、それは仕事上のことだもの。

「あ、里花さん、由朗さんからメッセージ。『合流してもいい?』だって」

沙織さんがスマホを見て言う。私は頷いた。

「ええ、いいわ。じゃあ、メインの注文はもう少し待ってあげましょ」
「ワインとアンティパストを追加ね」

やがて由朗が合流し、この日はいつも通り楽しいディナーで終わったのだった。