落胆を押し隠して明るいメッセージを送ると、奏士さんからの返信の前に沙織さんから連絡がきた。

【里花さん、今夜は私とごはんに行こう】

すっかり事情を知ってるだろう彼女の気遣いが嬉しい。私はOKの返信をして、スマホを置いた。
奏士さんからは日程がわかり次第連絡するというメッセージが夕方に届いた。


沙織さんと待ち合わせたのは、日本橋のイタリアンだ。大衆店といったわいわい賑やかなお店で、女性客が多い。

「沙織さん、今日はありがとう」

ワインで乾杯する。約束がなくなった私を気遣って誘ってくれたのだろう。

「でも、沙織さんはいいの? 奏士さんについていなくて」
「最近、秘書業務は功輔がやることが多いんだよね。アメリカでも一緒だし。私は私で三栖ビジネスソリューションズの仕事をメインにしてるから。定時過ぎて自分の仕事が終わってたからさっさと帰ってやったわ」

沙織さんが明るく笑う。それから私の顔を覗き込んだ。

「今日の奏士社長の会食相手、ハリウッド女優のアナ・ミラーなの。奏士社長が束ねる米国グループ企業の一社に、彼女がスポンサーを務めている会社があってね」
「え? あのアナ?」

アナ・ミラーは大女優だ。若い頃はその美貌と演技力で数々の賞に輝いている。彼女が二十代の頃に主演したラブストーリーは何度も見るくらい好きだ。
確か現在は五十代半ばのはずだけど、やはり海外セレブは本業以外にもそういった仕事で資産運用をしていくのかと納得する。