フィオナは淡々と答え、公園をぐるりと見て回った後、公園を出て歩く。ベテラン捜査官が捜査しても手がかり一つ掴めない事件だ。特殊捜査チームの一員とはいえ、まだ捜査員になったばかりの人間が手がかりを見つけるのは難しいだろう。

フィオナは目を閉じ、真実の一部を見ようとする。しかし、黒いバラの事件の時は手がかりになるような映像が頭に浮かばない。いつも被害者が亡くなった後の映像が浮かぶのだ。

「真実の一部すら見えないなんて……」

フィオナがそう呟くと、エヴァンが「ねえ、フィオナ」と軽く腕を引く。フィオナがエヴァンを見上げると、エヴァンが「あそこにいるのってレイモンドさんじゃない?」と指差す。

フィオナがエヴァンの指差す方を見ると、温かな雰囲気のある木造の診療所があった。そして、その玄関先で白衣を羽織ったレイモンド・アルストロメリアと患者と思われる女性が立っている。

フィオナは、同じ特殊捜査チームのレイモンドのことが気になり、気配を消して診療所に近付いてみる。レイモンドの優しい声がはっきり聞こえる。