「人は大切な人を失って、泣いて、怒って、後悔して、そして生きることが何か探します。でも、溢れていったものは戻らない。だから、私は、溢れていく大切な人やものを少なくしたいんです」

もうあの時のように、冷たくなった大切な人を見たくない。だからこそ、事件のことを全て知って大切な人たちを守りたい。

そう強い思いでフィオナはシオンを見つめる。シオンはフッと微笑んだ後、「サルビア」と声をかけた。サルビアは「わかりました」と言い、資料が入った棚から分厚い資料をいくつも取り出す。

「何年も前から時々あの事件は起きている。見ただけで殺人と思えるようなものもあれば、フィオナの家族のように事故と思われるケースもある。上層部が調べているんだが、どの事件も未解決のままだ。殺害された被害者に接点、共通点はない。だから、犯人の目星もついていない」

シオンがそう言い、フィオナはサルビアから手渡された資料をめくっていく。シオンの言う通り、様々な方法で人が殺されており、その中にフィオナたち家族の事故もあった。

「共通点は、黒いバラの花びら……」

フィオナが呟くと、一緒に資料を見ていたエヴァンが、「模倣犯が複数いるとか?」と真剣な顔で言う。しかし、サルビアが首を横に振った。

「黒いバラの花びらは、全て同じ品種のバラの花びらなんだ。その品種名はブラック・バカラ。捜査チームは黒いバラの花びらが落ちているとは世間に公表しているけど、品種名までは公表していない」

品種名を知っているのは犯人だけ。同じ品種のバラが使われているということは、犯人が同一人物であるという証拠だ。