――それから私は何をするでもなく、セダールント家で過ごすことになった。
やってきた日に、オスマンさんにここにいてもいいと言って貰えてご好意に甘えてしまっている。
「……なにもやる気が起きない」
今まではパン屋で忙しく働いていた。休日はないに等しくて、でもそれでも楽しかった。
だけど今はやることはない。ただ、召喚された特典なのか文字は読めることがわかった。この世界の多国語もわかることもわかったけど……。
「メル様? 夕食の準備ができました」
あの日は美味しいと感じた食事。
だけど翌日には食欲が無くて食べられなかった。そして次の日も、その次の日も食べられなくて食欲も出ない。
「……今日もいらないわ」
「そうでございますか、分かりました」
よくしてくれる方に申し訳ないと思う。食べ物を無駄にするのもいけないことだ。
わかっているけど体が拒否している……ホームシックという奴かもしれない。
「ふわふわのお父さんのパンが食べたいなぁ」
お父さんどうしてるんだろうか。私のこと心配してくれているんだろうか。