* * *

ずっと好きだった。

一人ぼっちだった自分に、優しく話しかけてくれたルナのことが。

誰よりも優しいルナのことが。

菫は泣きながら人混みの中を駆けた。


ドスン!


「きゃっ!」


誰かにぶつかって、菫は尻餅をついた。


「ご、ごめんなさい。わたくし前を見てなくて。」


差し伸べられた手を取り立ち上がると、目の前に居たのはヨルだった。


「大丈夫かい、お嬢さん?」


ヨルは心配そうに尋ねた。その優しげな声に、菫は涙を止めることができなくなった。


「わ!泣かないで!話しなら聞くよ。何があったの?」


「ぐす……ルナ君の事がずっと好きだったのに、わたくしの他に好きな人がいて……でもわたくし、分かっていたのに……」


菫はぐちゃぐちゃになりながらヨルに思いを伝えた。  

「そっか……」


ヨルは泣きじゃくる菫の手を握って言った。


「君を泣かせるようなバカ兄なんてほっといてさ、オレにしなよ、お嬢さん」


その言葉を聞いて、菫はヨルの手を振り払った。


「……揶揄わないで!」


菫はそのまま祭りとは逆方向に走って行ってしまった。


「オレの言葉って、そんなに薄っぺらいのかな……」


ヨルは1人、その場に立ち尽くした。