ルナは金魚を持った菫と共に、屋台巡りを続けていた。


「見つからないね」


「ええ、そうですわね……」


菫は少し疲れた様子で言った。

ルナがスニーカーなのに対して、菫が履いているのは草履だ。履き慣れていないのだから、疲れて当然だった。


「藤堂さん、少し休もっか」


「え、でも……」


「藤堂さん草履だし、疲れたでしょ?少し休んで、それから探そうよ」


「……はい。そうしますわ……」


ルナと菫は、道の端にあるベンチに腰掛けた。


「……ルナ君は優しいですわね」


菫の言葉に、ルナは首を傾げた。


「そうかな……?」


すると菫は迷わずに言った。


「そうですわ。出会ったときから、そうでしたわ……」


「出会ったとき?」


「ええ。去年の入学式、家柄のせいで周りから距離を置かれていたわたくしに、ルナ君は声をかけて下さいました。おかげで、話しかけてくれる人が増えて友達もできて……本当にありがとう」


「それは、藤堂さんがいい人だからだよ。みんながそれに気がついたから……」


「でも、きっかけをくれたのはルナ君ですわ」


すると、菫は立ち上がってルナを正面から見つめて言った。


「わたくし、ルナ君が好きです」


ドン!


花火が上がった。


「誰よりも優しいルナ君が好き。ずっとあなたのことを考えていました。……わたくしの恋人になってくださる?」


菫は顔を赤くしながら、ルナに訴えた。


「恋人……僕と……?」


「ええ、そうです」


ルナには分からなかった。恋人というものが。好きってどんなものか。


「僕……分からないんだ。好きとか、恋人とか……」


「……本当に?」


「え……?」


「本当は、他に好きな人が居るのではなくて?」


好きな人…その瞬間、ルナの脳裏にハルの笑顔が浮かんだ。


ハッとするルナの様子を見て、菫は涙をこぼしながら笑顔を作った。


「そうですわよね。……最近のルナ君、いつもよりもキラキラしてましたから。そうじゃないかと思ってたんです……」


「……藤堂さん、僕……」


何か言わなければ、と口を開いたルナを、菫は止めた。


「言わないで。分かってますから……」


菫は涙を止められずに、居たたまれなくなってその場から逃げ出した。


「藤堂さん……!」


自分に菫を追いかける資格があるのだろうか。

ルナは菫を追うことができなかった。


「最低だな、僕……」