総長様の溺愛は、甘すぎます。

「てか、肝心な花衣が全然食えてないし…」

「あ!私は、大丈夫ですよ!」

いま、この空間がすごく楽しいから…。

私は、この世界にこんなに幸せなことがあるなんて、思ってもみなかった。私は、お父さんが死んじゃってから、お母さんが、たっくさんの愛情を注いでくれたけど、……

でも、実は、お父さんからの愛情にうえてたんだ。お金もないから、中学生時代も友達と遊びに行くなんてなかった。

誘いを断り続けていたせいか、友達も上手くできなかったし…

そう思うと、悲惨だったな~……なんて、

「楽しい…」

「え……?」

気づいたら、もれていた声に、白銀さんが驚いたような声を出した。

「あ、私、声出てました?」

「あ、ああ…」

「すみません、なんでもないんです!」

私はそっと、この幸せが続きますように、と願った。

家に帰って、私は、お屋敷の掃除をしていた。

お屋敷の掃除、基本的に機械を動かして、やってるみたいだけど、たまには、人の手の入った掃除もね……

実は私、掃除は意外と好きで……

5時半になって、玄関のドアが開く音が聞こえて、凌さんだ!と、玄関へ急いだ。

「凌さんっ!お帰りなさい。」

「っ、」

凌さんが息をのんだのが、分かった。

「佑香、そのエプロン…」

エプロン…?

「あ、掃除をしてたので、」

「そんなのしなくていいのに。」

「私がしたくて、やったので!許してください。」

「怒ってる訳じゃないんだ。ただ、佑香が、大変だろ?」

凌さんはなんで、こんなに人のことを考えられるんだろう…本当に尊敬できる…

「大丈夫です!ありがとうございます。」

「ん。」

「あ!そうだ、夜、何が食べたいですか?」

「佑香の得意料理がいい。」

得意…ないんだよね…強いていうなら、

「パエリア…」

「オシャレだな。」

「ふふっ、じゃあ、頑張りますね!」
急いで、パエリアを作って、7時10分、凌さんをよんだ。

「いただきます。」

スプーンの上に多めにパエリアをのせて、口の中へ運んだ凌さんの感想が気になった。

「美味いっ、」

「ありがとうございます…」

「佑香はすごいな。俺には、出来ない。」

「凌さんは、彼女さんが、きっと、作ってくれますよ……」

私は、凌さんの彼女さんになる人がどんな人なのか想像してしまった。

「は? 俺には、彼女なんていない。ていうか…」

言葉の途中で、身を乗り出して来た凌さん。

「俺の許嫁は佑香だから、」

「そ、そうですけど…凌さん、好きな人くらい…」

「好き…か…」

体を元の位置に戻した凌さんの顔が、少し歪んだように見えた…。
「え…?凌さん…?」

「いや、なんでもない。、、ごちそうさま」

早っ、凌さんの手元を見ると、綺麗に食べられていて、凌さんは食器を流しへ運んでくれた。

…なんか、おこらせちゃったかな…

「あ、ありがとうございます。」

凌さんは食器を洗い終わると、リビングを出ていってしまった。
6 (好きと嫉妬)
[凌side]

自分の部屋へ戻ると、俺は、ベットに体をなげた。

「はぁ、俺は、何やってんだ…」

手を目元にもってくる。

「好きな人…ね…彼女なんて、いるわけないだろ…。」



『凌さんは、彼女さんが、きっと、作ってくれますよ……』


フラッシュバックするさっきの佑香の言葉。

俺が彼女にしたいのは、佑香だけなのに…

…風呂入って、寝よ。今日は、黎もいないし、

ため息をつきながら、部屋を出ると、ばったり佑香とはち合わせてしまった。

「あ…」

なんともいえない、困ったような表情を浮かべている佑香に罪悪感が湧き上がってくる。
何もいえない。

「……」

何も言わず、ただ佑香の横を通り抜けて、風呂場に向かった。

先に歯を磨いて、口の中を綺麗にしてから、風呂に入った。


風呂から出て、部屋へ戻ると、部屋のドアにメモのようなものが、はってあった。

『凌さん、凌さんの気にさわることを言ってしまって、ごめんなさい。凌さんと普通に話したいです。 花衣』

その文面から、佑香の切実な願いが感じられた。それと同時に自分が情けなくて仕方なかった。

メモをはがして、俺は佑香の部屋のドアをノックした。

「は、はい。」

ドアが開いて、佑香が顔を覗かした時、俺は耐えられなくなって佑香を抱きしめた。

「へっ!?り、凌さん、?」

「ごめん。こんなやつ嫌だよな。」

「え?」

「、、ただ、俺は、佑香が許嫁で良かった。」

俺の言葉に佑香は、少し黙ってから、俺の背中に手をまわして、俺を抱きしめかえしてくれた。






「よかったぁ…」

「え?」

俺より、30cmぐらい、低い佑香の顔を覗くように、俺は顔を下に向けた。

すると、ホッとしたような笑顔を浮かべる佑香の顔が…

「私、不安だったんです。その、許嫁の話って、お母さんの遺言というか遺書で、幸せになって欲しいって書いてあって…それで、決意してここに来ることを決めたんですけど…」

知らなかった、そうだったのか……佑香は、本当に、親が大好きなんだな…

「正直、凌さんがどうゆう方なのかも、分からなかったし、何より、凌さんに好きな人とか、彼女さんがいたらどうしよう…追い出されたら…って、色んな不安がありました。」

「凌さんは、許嫁の件、受けてくれましたけど、本当は社交辞令だったんじゃないかなって…」

そんなことない。許嫁の件を受けたのは、本当に心から、佑香が好きだったから…

「社交辞令なんかじゃない。」

「ありがとうございます…」

少し、視線を下に落とす佑香、

「私、身寄りがなかったので、断られたら、1人で生きていくつもりでした。」

「…私、相手が凌さんで本当に良かったです!」

俺が今まで見た中で、1番だと言えるくらいの満面の笑みを浮かべた佑香に、胸がグッとなった。

「あ、でも、凌さん。もし、これから凌さんに好きな人が出来たら、この話、断ってもらって、大丈夫なので…」

その言葉はきっと、佑香なりの配慮なんだろう…

「…うん、佑香、じゃあ風呂入っておいで。」

佑香の頭をポンポンと撫でて、抱きしめていた腕をはなした。

「、はいっ、行ってきます!」

そんな佑香を見て、俺は絶対、佑香に好きになってもらう、そんな決意を新たにした。
数日後の昼休み、俺は、LUPUSの溜まり場に来ていた。

佑香は、用事があるらしく、今日はいない。

「今日、花衣さんいないのか~」

「遥斗、なんか、花衣のこと気に入ってるよな。」

「ああ、うん、なんか運命感じた…」

は?遥斗のやつ、何言ってんだ。

「なあ、凌、花衣さんと付き合ってんの?」

「…つきあって、は、ない。」

付き合ってるかと聞かれたら、付き合ってない。佑香は、俺の事を好きな訳じゃないし。

「じゃあ、俺狙ってもいいよね。」

なんかニヤニヤしながら、挑戦的な目で俺を見てきた遥斗。

なんだこいつ、何が言いたいんだ。

「おい、遥斗、やめとけ。凌に殺されるぞ。」

竜が何か言ってるけど、そんなことはどうでもいい。

「絶対、渡さねぇから。」

「俺も譲る気ないよ?」

「お前らストップ、みっともねぇぞ。」

輝月…の言う通り、だな。みっともない。
でも、佑香は、俺と結婚するんだ。遥斗のものになるわけがない。
「凌さん!今日、行けなくてすみませんでした。」

家に帰って、佑香に会うと、佑香は、そう言いつつ、少し引きつったような表情を見せた。

俺がそれを見過ごすわけない。

「佑香…?どうした?」

「え?」

「何かあったのか?」

「え?何もないですよ?昼は委員会の仕事があったので、行けなくて…」

いつも通りの表情を見せる佑香。

さっきのは、なんだったんだ…?昼、行けなかったことへの申し訳なさだったのか?

「凌さん…?どうしたんですか?」

…心配だけど、佑香が大丈夫だというなら、信じるか……



この時の俺は、確実に判断を間違えてしまった…その結果、まさかあんなことが起こるなんて、思ってもみなかった……。