容姿が駄目ならば、せめて一流企業には母の口癖だ。 そして母の言う通りのレールの上を歩いて来た。

「東京に居るのが心配だけどね。
いいか?香。変な男に騙されるんじゃないよ。
お母さんの時とは時代も違う。 女だって頑張れば男の上に立てる時代なんだよ。
男なんて皆同じだ。だからあんたは仕事を頑張るんだよ。 器量は悪いんだ。仕事を頑張るしかあんたにはないんだから」

「…分かっているよ」

けれど、私の夢は母の夢とは違う。
私の小さな頃からの夢は、大好きな人のお嫁さんになる事なの。

ささやかでも温かい家庭を築いて、自分の家族を作りたい。   その夢を頭で描いた時、北斗さんの優しい笑顔が浮かんだ。

それをかき消すように、話を変えた。

「それよりお母さんは元気なの? お父さんは…?」

「私は心配してもらわなくても元気よ。
お父さんの事は知らない。 この歳になっても女癖の悪さっていうのは直らないものだよ。
本当に嫌になるよ。」

「そっか……」