「――同窓会……かぁ」

 真樹は右手に往復ハガキを持ったまま、左手でテーブルに頬杖をついて、その言葉を噛みしめるように呟く。

「あれからもう五年経ったんだなぁ」

 彼女は一度立ち上がると、寝室兼書斎になっている洋間のクローゼットから、小さな透明のプラスチックケースを取り出した。
 そこに入っているのは、金色のボタンが一つ。これは、真樹の母校である中学校の、男子の学生服についていたボタンである。

 そしてこれは、真樹にとって大切な思い出の品でもあるのだ。

 ――卒業までの間に、真樹と岡原との間に何もなかったのかといえば、実はそうでもない。

 中学生活最後のバレンタインデーに、真樹は思いきって彼にチョコレートを渡した。
 彼とは当時クラスが違っていたので、わざわざ彼のいる隣のクラスまで出向いた。彼の友達数人も、その場にいた。

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『――あれ? 真樹じゃん。ナニ?』

 その頃、真樹はすでに彼から下の名前で呼ばれていたけれど、決して二人は付き合っていたわけではない。

『お……っ、岡原! あの……コレ……』

 彼を目の前にしてテンパってしまった真樹は、勇気をふり絞ってチョコの包みを彼に押しつけるだけで精一杯だった。こんな大事な時にさえ、彼のことを名字呼び(それも呼び捨て)にしかできなかった自分を「可愛くないなあ」と思ったものである。

 その後逃げるように自分のクラスへ戻ったので、告白どころか真樹からのチョコを受け取った彼がどんな表情をしていたのか、確かめることすらできなかった。

 ――それから一ヶ月後。その年はちょうどホワイトデーが卒業式の日だった。