「あんた、高校に入ってから誰ともお付き合いしてないでしょ? もしかして岡原くんのこと、まだ引きずってるの?」

「う……っ」

 痛いところを()かれ、真樹は返事につまってしまう。

「もう忘れなさい、とは言わない。あれじゃ失恋したかどうかもはっきりしないし。だからって、このまま一生この恋に縛られてるつもり?」

「それは…………、まだ分かんないけど」

 今の真樹には、そう答えるのがやっと。
 もちろん彼女も、このまま現状維持なんて望んではいない。何らかの形でこの恋に決着をつけなければ……とは思っているのだ。
 せめてもう一度だけでも、彼と会って話せたら……。

「――とにかく、あたしの問題はあたし自身で解決するからさ、大丈夫。じゃあね!」

 これ以上この話題に踏み込んでほしくない真樹は、それだけ言うと逃げるようにレジへ。会計を済ませ、重たくなったエコバッグを肩から()げてマンションへと引き返していった。

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「――ただいま、佐伯(さえき)さん」

 真樹はマンションに着くと、エントランス横の管理人室にいる初老の男性に挨拶した。

 管理人――佐伯さんは六十代(なか)ば。ここの管理人歴は長く、マンションができた十五年前からだという。
 このマンションの店子(たなこ)の安全はオートロックではなく、彼が守っているのだ。

「ああ、麻木さん! おかえり。――買い物かい?」

 佐伯さんは好々爺(こうこうや)のような笑顔で、挨拶を返してくれた。

「はい、今日はカレーを作ろうと思って。一人じゃ食べ切れないんで、あとで持ってきますね」

 父親のような彼にそう答えてから、真樹は管理人室の横にある集合ポストを覗いた。